研究員オダの環境レポート
Vol.37 風邪と抗生物質
<2015.01.26 更新>

 風邪を引いて病院で診察を受けると医者から抗生物質を処方されることがあります。抗生物質について皆さんはきちんと理解されていますか?

 世界初の抗生物質は、1928年にアオカビ(ペニシリウム)から発見されたペニシリンです。抗生物質が見つかった当初「抗生物質」という言葉は「微生物が産生する、ほかの微生物の増殖や機能を阻害する物質」を意味していました。その後、感染症治療に有効な抗生物質は細菌に対して効果のある抗菌薬(抗細菌剤)が大半でした。そのため、現在、一般的に抗生物質と呼ばれるものは抗菌薬を指しています。医療機関や研究機関では「抗菌薬」や「抗ウイルス薬」、「抗真菌薬」のように攻撃対象とする微生物によって呼び方を変えています。

① 抗菌薬
 抗菌薬は細菌の細胞機能に作用して細菌に対してのみ毒性を示す生物由来の薬剤です。細菌のRNA(遺伝子情報)の合成阻害、細胞壁(細胞を囲む膜)の合成阻害、たんぱく質の合成阻害によって、細菌の増殖・生育を抑制して殺します。抗菌剤は消毒用エタノールなどの消毒薬や殺菌剤とは異なる作用で微生物を殺します。消毒用エタノールの殺菌作用は微生物の水分を奪って・細胞膜を破壊し、たんぱく質を凝固させることによるものです。

② 抗真菌薬
 抗真菌薬は真菌(カビ;水虫など)に効果のある薬です。抗菌薬は化学構造から10種類に大別されているのに対して、抗真菌薬はポリエン系、アゾール系、キャンディン系そしてフルシトシンの4群しかありません。また、副作用が強い薬剤も存在します。真菌は私たち動物と同じ真核生物であり細胞内機能も似ているため、人に影響を及ぼさずに病原真菌だけに効く薬剤の製造が困難です。また、限られた薬剤の中でも、薬効のある範囲や副作用の問題から、実際の実用的な抗真菌薬はアゾール系、キャンディン系の2種類しかありません。

③ 抗ウイルス薬
 抗ウイルス薬はさらに少なく、患者数の多い特定のウイルス(インフルエンザやB型肝炎)専用の薬だけが製造されています。ウイルスは非常に多様性が高く、種類によって生活環が大きく異なるため専用の薬を作る必要があるのです。

 風邪の原因は大半がウイルス性です。つまり抗生物質を飲んでも風邪を治す効果はありません。また、風邪の原因ウイルスに対する抗ウイルス薬も存在しません。一般的な風邪薬は風邪の諸症状(喉の痛み・腫れ、咳、発熱など)を和らげる薬効で、風邪の原因ウイルスに対して直接効果のある薬剤はありません。風邪を治すために重要なことは、安静にして十分な睡眠をとることです。直接効かない風邪薬も「眠くなる副作用を利用して早く眠る」、「咳・発熱を緩和して安静にする」など、質の高い休養に繋げることで風邪の治療に効果があるといえるでしょう。
 処方された抗生物質についても、効かないから飲まなくてもいいわけではありません。風邪症候群の中には細菌性の疾病もあり、医者でも正確な診断が難しい場合も多々あります。細菌性の風邪には抗生物質が有効ですので、医師の指示に従ってきちんと服用することが懸命です。ただし、1週間ほど服用しても効果が見られないときには、まったく別の病気かもしれません。迷わず専門医に受信、相談しましょう。
 何よりも大切なことは、風邪を引かないことです。バランスのいい食事と十分な睡眠、手洗いうがいなど、日常的に健康に気をつけておきましょう。

 
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このコラムについて エフシージー総合研究所・IPM研究室の活動内容や、研究中の内容をスタッフ目線でレポートした記事です。一般のかた向けに分かりやすく解説しています。
IPM研究室とは エフシージー総合研究所・暮らしの科学部所属。室内環境の有害物質を調査・研究しています。特に「室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究」を主仕事としています。
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