129

安藤ハザマ
気象危険予知システム「KKY」

2021.02.22

最新記事ビッグデータ活用“熟練者の忠告”

 この10年ほど、AI(人工知能)の研究が飛躍的に進化し、ビッグデータといわれる膨大なデータ群の管理や解析を容易にした。この技術は、猛威をふるっている新型コロナウイルスの感染予測をも可能にした。今回の「これは優れモノ」は、このテクノロジーを活用して、建設現場での労働災害を推測するシステムについて取材した。  

KYY

紙ベースを電子化

 「トンネルやダム工事での先輩方の培ってきたノウハウを次世代に残すための作業がきっかけです」と話すのは、安藤ハザマ建設本部技術研究所技術管理部の秋田宏行(50)さん。若い頃トンネルや橋梁工事の現場に携わってきたキャリアを生かし、現在の部門で全社の技術開発を管理する業務に携わっている。
 同社には創業以来100年以上に渡る建設現場での施工の知恵や知識が膨大に蓄積されている。ところが、そうしたデータの多くは紙ベースでロッカーの中で眠っていたという。
 「こうした情報を電子化して、作業効率を挙げることが、当社のみならず業界全体の課題です」と話を引き取るのは、同研究所先端・環境研究部長の黒台(くろだい)昌弘さん(55)。入社以来、建設機械の自動化や現場作業のICT化に携わってきたシステム開発のエキスパートだ。
 AIやビッグデータ分析に関する技術開発として、施工技術や施工管理のノウハウなどの業務知識のデータベース化に取り組んできた。そこから、さらに一歩進めて現場支援と作業効率向上のための労災事故の未然防止に寄与するシステムの開発に行き着いた。軽微な事故であっても、場合によっては工事の休止を余儀なくされ、工期が遅れることがあるからだ。

事故情報を整理・集約

 各現場から上がってくる事故情報には行政への報告のため当時の気候、作業現場の環境、作業員の服装や作業内容など細かな情報が網羅されている。こうした情報を集約、解析すれば事故発生の傾向が見えてくるはず。秋田さん、黒台さんらのチームは過去の事故情報を一件ずつ再整理し、デ-タベースを構築していった。
 このビッグデータを基に、建設現場への注意喚起情報を配信するのが「気象危険予知システム(KKY)」だ。過去の事故発生時とその発生前一週間の気候を分析し、本日現在の建設現場で注意すべき事故について各現場に警報を流すというもの。このほか、情報のマンネリ化を防ぐことを目的に、熟練作業員の経験則に頼っていたような気象に関係する品質情報などを加味した。
 例えば寒冷地では、気象条件によってコンクリートの強度が出てくるまでに時間がかかり、固まらないという事象が起きる。寒冷地での作業経験が少ないと、この対応が遅れるケースもあるため、KKYではそうした注意喚起もしている。
 2019年10月にリリースすると、同業他社のみならず鉄道、電力、道路などの事業者からの問い合わせが殺到したという「優れモノ」だ。
 「データサイエンスによる新たな取り組みで、従来の建設現場のイメージを変えて、若者たちを呼び込む起爆剤となれば」と秋田さん、黒台さんは声をそろえて強調した。  

interview 安藤ハザマ建設本部技術研究所
先端・環境研究部長  黒台 昌弘 氏
技術管理部      秋田 宏行 氏

環境が体調に及ぼす影響も加味

建設現場の効率化がいわれている

 図面など紙の資料を抱えていると思われがちだが、現場ではタブレットの導入などで、ペーパーレス化が進んでいる。一方で、施工上の細かな現場情報や事故情報などはデータ化が遅れていた。経験則だった情報を集約・解析し、業務作業の平準化に努めている。気象危険予知システムはそうした中で考案されたものだ。作業員の安全・安心が最優先課題であるとともに事故やけがは、当事者に精神的なダメージを与え、甚大な事故では周辺住民や作業工期にも影響を与えるからだ。

具体的にはどういう仕組みか

 けがの程度にかかわらず、労災事故が発生すると現場では詳細な顛末を労基署など行政に報告する必要がある。この報告内容にある事故の状況などを事象ごとに分類する。そして、事故発生日を含む当該現場1週間前までの気象データを統計的に解析する。気象条件と時間や場所などの組み合わせは、全266項目に及ぶ。どんな現場でどういう気象条件だと、どういった労働災害が発生しやすいかという推測を立てるというものだ。事故発生前1週間の気象データを分析に加えるのは、必ずしも当日の天候だけでなく、それ以前の気象環境が体調に影響を及ぼすという“生気象学”の知見によるものだ。

どんな形の注意を出すのか

 気温が急激に変化する場合、自律神経に乱れが生じやすい。すると注意力が散漫になり「飛来・落下」に注意という警報を出す。こうした警報は、実際の事故発生のデータを基に導き出したものだ。科学的エビデンスに基づいた情報提供で、現場の職員や作業員に納得し理解を深めることを狙っている。このほか「崩壊・倒壊」など10項目の労働災害の注意報を出している。

現場への注意喚起での工夫は

 朝の現場は忙しい。長々とした文章では読まれないため、直感的に理解できるアイコンなどで情報を提供し、注意事項を示すように工夫している。また、労災注意報だけでなく、虫刺されや火災、コンクリートが固まりにくいといった施工上の注意報も提供するようにしている。他業界からも本システムについて引き合いがあるが、工事内容・手順にも違いがあることから、まずは当社内で実証を重ねた上でと考えている。

フジサンケイ ビジネスアイ掲載記事・これは優れモノ