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新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室~環境微生物学の研究者~の立場から〜
第9回:第2波に対抗するために、夏季に免疫力をつけておきましょう!
~自宅に籠るのはマイナス!屋外で適度に運動するのが一番~

 前回のコラムで『インフルエンザウイルスと同様に、新型コロナウイルスも、飛沫感染と接触感染が主たる感染経路です。冬季の暖房によって乾燥した密閉空間では空気感染することが懸念されますが、夏季の開放的な屋外で空気感染することはありません。気温30℃・湿度50%以上の高温多湿な夏季の環境下では、新型コロナウイルスはほとんど生存できません。』と述べました。そして、厚生労働省が5月26日に発表した「屋外で人と十分な距離が確保できる場合にはマスクを外すこと。高温多湿の中でのマスク着用は体に負担になるので避けていただきたい。」という発表を受けて、夏季のマスク着用の使い分けについて解説しました。

 関東甲信越地方では6月11日に梅雨入りしましたが、晴天の日には30℃を超える夏日が続くことがあります。それでも、炎天下の中、相変わらずマスクをして屋外を歩く人が多いようです。何を信じて良いか判らなくなっている一般の方々には、それも無理がないことかもしれません。人々の恐怖心を煽る責任の一端は、テレビやラジオの報道にあります。

 6月15日「東京都で新たに48人感染」という実態は、ホストクラブの従業員などを対象としたPCR検査の結果と病院の院内感染が大半で、普通に通勤して仕事をしている方々とは関係なく、感染者急増は一過性であることが明らかです。それにも関わらず、NHKがその日の街頭インタビューで、「今日は東京都で48人の感染者が出ました。この結果をどう思いますか?」と道行く人に尋ね、「怖い!、心配!、自粛が緩和されて大丈夫なのか?」といったネガティブな感情だけを編集して流し、それを受けてスタジオのアナウンサーが畳みかけるように「みなさん注意しましょう!」といったコメントをさもありなんとアナウンスする。NHKですら、このような有様ですから、民放は推して知るべしです。民放ラジオの女性アナウンサーが、「○○○○、でも心配だから、一日中ずっとマスクしちゃいますよね」と、視聴者に同意を求めるような盲目的なアナウンスをすることにはあきれかえるばかりです。

 今回のコラムは、「大丈夫!そんなに深刻に心配することはない!ヒトが本来持っている免疫力はそんなに軟弱なものではない!」という思いを込めて、「免疫」について解説します。


【免疫とは何か?】

 免疫とは、読んで字の如く「疫病から免れる」ことですが、外界から体内へ侵入してくる病原体や体内で発生する悪性新生物(ガン細胞)に対して、免疫細胞の働きによって攻撃して取り除くことを適宜行って、健康な身体を維持する大切なしくみです。感染症から身体を守る、同じ病気に二度と掛からないようにする、ワクチン接種に効果が出るというのも、免疫の働きです。免疫細胞が攻撃する相手を「抗原」と呼びます。そして、免疫には天使(生体防御)悪魔(生体攻撃)の二面性があります(図31)。「生体防御」から見ると、『病原体(抗原)の侵入➡IgG抗体(免疫グロブリン Immunoglobulin,略称Igの一種。身体に入ってきた細菌やウイルスに働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体)が作られる➡次に同じ病原体が侵入する➡IgG抗体が病原体(抗原)を攻撃して発病を防ぐ』という流れになります。

 これに対して、「アレルギー」から見ると、『花粉やダニ(抗原=アレルゲン)の侵入➡IgE抗体(免疫グロブリンの一種。身体に入ってきたアレルゲンに働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体)が作られる➡次に同じアレルゲンが侵入する➡IgE抗体がアレルゲンに反応するとマスト細胞(=肥満細胞。気管支、鼻粘膜、皮膚などの粘膜に存在し、ヒスタミンなどを放出する)が活性化されて、化学物質が出てアレルギー反応を起こす』という流れになります。本来なら攻撃する相手ではない花粉やダニなどのアレルゲンに過剰反応するのがアレルギーです。自己免疫疾患では、バセドウ病、関節リウマチ、1型糖尿病などが良く知られています。

 「免疫細胞」は、主に骨髄に存在する「造血幹細胞」から増殖・分化して、赤血球や血小板と共に「白血球」として作られます。免疫細胞である白血球は、①顆粒球<好中球、好酸球、好塩基球>、②リンパ球<T細胞・B細胞・NK細胞>、③単球<分化してマクロファージ・樹状細胞>が含まれます。このことから図32に示すように、免疫力は白血球が担っています。

図31:免疫には天使と悪魔の二面性がある


図32:免疫力を司る白血球の役割分担

【自然免疫と獲得免疫】

 免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」があります(図33)「自然免疫」人に生まれつき備わっている免疫反応です。病原体から自分の体を守るために、動物に備わっている大切な防衛システムで、ウイルスなどの病原体が身体に侵入すると、速やかに反応して駆逐する働きをします。樹状細胞、マクロファージ、顆粒球、NK細胞といった免疫細胞がそれにあたります。「マクロファージ」は、ほぼ全ての多細胞動物に存在する細胞で「樹状細胞」は哺乳動物だけに存在する細胞です。どちらも「食作用」と「抗原提示機能」(敵の侵入をリンパ球へ知らせる)をもつ細胞ですが、マクロファージは「食作用」、樹状細胞は「抗原提示機能」が主たる働きです。また、マクロファージは血液やリンパ液など、体内の至るところに存在するのに対して樹状細胞は皮膚組織、消化器官、呼吸器官など抗原が体内に侵入しやすい部位に多く存在しています。マクロファージは食作用によって異物を取り込んで分解するため、抗原だけでなく死んだ細胞も分解します。異物を食作用によって分解することは最も基本的な免疫機構のひとつです

図33:自然免疫と獲得免疫の違い


 「獲得免疫」は、後天的に獲得される免疫反応であることから自然免疫と区別して呼ばれています。生まれつき備わっているものではなく、敵(抗原)に出会うことによって、その敵に応じた攻撃法を学習して記憶し、次に同じ敵に出会った時に、「抗体」を素早く産生することによって排除する免疫システムです。自然免疫の監視をかいくぐって体内で増殖を始めた病原体やガン細胞が現れた時に活躍する高度な免疫システムで、実際には、敵(抗原)を発見すると、リンパ球(T細胞・B細胞)が大量に増殖され、強い殺傷能力を発揮します。

 図34をご覧ください。近年、「自然免疫細胞には獲得免疫細胞に敵の情報を伝達し、獲得免疫の働きを活性化させる」という情報伝達役(抗原提示機能の役目)という重要な機能があることが分かってきました。樹状細胞には取り込んだ抗原を分解し、抗原成分をT細胞に提示する抗原提示機能が備わっています。マクロファージにもこの機能がありますが、樹状細胞の抗原提示機能の方が、マクロファージより強力であることが近年の研究によって明らかになりました。これらの特徴から、免疫系が進化する過程で、効率的な抗体生産を行うために進化した細胞が樹状細胞ではないかと考えられます。中には、自然免疫と獲得免疫の両方の特徴を併せ持つナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)のような細胞もあります。

図34:自然免疫と獲得免疫の協力関係


 新型コロナウイルスの攻撃を防御する免疫機構に当てはめてみると、第1段階として速やかに働く「樹状細胞やマクロファージによる食作用(細胞性免疫=自然免疫)」が挙げられます。これは、感染した細胞ごと取り込んでまとめて分解することです。第2段階として少し遅れて働く「リンパ球が、新型コロナウイルス自体を殺戮する抗体を発射する作用(抗体=獲得免疫)」が挙げられます。

 最近、筆者が注目している2つの免疫システムがあります。1つは、オランダの研究グループが提唱している「訓練免疫(trained immunity)」という仮説です。読者の皆さんも「BCG仮説=BCG接種と新型コロナウイルス感染者数の関係」については、耳にしたことがあるのではないでしょうか?これは『BCGワクチンは、インターフェロンγの産生を促すだけでなく、ヒトの免疫系細胞の1種である単球<マクロファージや樹状細胞に分化する細胞>を活性化して、種々のサイトカイン(主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質(生理活性物質)。極めて微量で生理作用を示し、細胞間の情報伝達を担う)を分泌させることから、自然免疫が働きやすくなるように訓練された状態になる』という仮説です。

 もう1つは、アメリカのLa Jolla Institute for ImmunologyのGrifoni, A.らの研究グループが生命科学誌Cellに発表した多くのヒトが「広域交叉反応性メモリーT細胞」を獲得しているという仮説です。

 読者の皆さんも、これまでに何度か風邪(いわゆる寒い季節に罹患する風邪症候群)をひいた経験があると思います。原因微生物の80~90%はウイルスで、その筆頭に挙げられるのがコロナウイルスです。以下、ライノウイルス、RS ウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが続きます。一般細菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラなど、細菌も原因となります。しかしながら、風邪症候群のワクチンはありません。繰り返し何度も風邪をひいて、大抵の場合は軽い症状で回復するのでワクチンは必要ありません。『風邪症候群の原因となるコロナウイルスは、4種が存在するようで、これら4種のコロナウイルスに繰り返し感染することによって、ほとんど全てのヒトがコロナウイルスの仲間に対する免疫を獲得している可能性が高いのではないか?!また、ヒトによってはコロナウイルスに共通の何らかの抗原を認識する「広域交叉反応性メモリーT細胞」を獲得しているのではないか?!』という仮説です。

 衛生害虫として知られる蚊やハエは、化学構造式が似た殺虫剤に対して、早い場合には5~6世代経過すると、その殺虫剤に対して抵抗性を示す(効かなくなる)ことが知られています。進化の過程で、高度な免疫システムを確立してきたヒトが、前述のようなまだ証明されていない免疫システムを持っていると考えた方が自然のように思います。


【ワクチンとは何か?】

 新型コロナウイルスを終息させる手段は、「①集団免疫を獲得すること」「②ワクチンが開発されて使用できるようになること」です。ワクチンとは何かについて、図35に示します。獲得免疫のシステムを活用し、病気を予防したり、治したりする目的で「ワクチン」が開発されました。ワクチンは、病原体から作られた無毒化あるいは弱毒化された抗原を投与することで、体内の病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得させるための医薬品です(表11)。ワクチンを接種する目的は、①本人がその感染症にかからないため、②もし感染しても症状を軽くするため、③周りの人にうつさないため、④抗生物質の効かない耐性菌の出現を防ぐための4つが挙げられます。

図35:自然感染とワクチンの違い

表11:ワクチンの分類と特徴


【免疫力を司るのは腸、だから腸活が必要!】

 さて、ここまでできる限り詳しく「免疫」について述べてきましたが、この免疫力を実際に司っている臓器は「腸」であることは、「腸活」や「プロバイオティクスヨーグルト」などから読者の皆さんもご存知かと思います。

 腸は外界と接する最大の組織で、表面が5,000万本にも及ぶ絨毯のような腸繊毛によって被われています。そして、腸の表面積は皮膚の200倍、テニスコートの1.5面分(約392m2)もあります。また、腸は、食べ物と共に、病原体が常に侵入してくる危険性を孕んだ臓器であるとも言えます。そのため、体内で最も密接に「外界」と接する腸には、外敵(=抗原=病原ウイルスや病原細菌)を撃退してくれる「免疫細胞」が大集結しています。何と、体内の全免疫細胞の約70%にあたる免疫細胞が栄養や水分を吸収する腸壁のすぐ内側に密集しており、外敵の侵入に備えているのです(最大の免疫組織)

 また、細い血管の約55%が集まる最大の末梢血管組織であり、脳を除く神経の約50%が集まる最大の末梢神経組織であり、神経ペプチドや消化管ホルモンを分泌する最大のホルモン組織でもあります。そのため、「腸は第2の脳」とも呼ばれています。それだけではありません。最近の研究では、腸の内部には、全身から集めた免疫細胞の戦闘能力を高めるための、「訓練場」まで用意されていることが解ってきました。小腸の壁の一部に存在する平らな部分が訓練場に相当し、「パイエル板」と呼ばれています。

 パイエル板の表面には、腸内を漂うさまざまな微生物や食物片などの「異物」を、腸の壁の内部に引き入れるための入り口が用意されていて、そこから引き入れた「異物」を、パイエル板の内側に密集する大量の免疫細胞に接触させて、人体にとって有害な敵の特徴を学習させているようです。パイエル板で訓練を受けた免疫細胞は、腸でのディフェンスを強固にするだけでなく、血液に乗って全身に運ばれ、身体各所でウイルスなどの病原体を発見すると攻撃する戦闘員になります。腸とは無関係に見える季節型インフルエンザに対する免疫力の高さも、腸での免疫細胞の訓練と密接に関係しているようです。そう考えると、新型コロナウイルスに対しても、我々の免疫システムが手をこまねいているとは思えません。むしろ、我々の強固な免疫システムによって、新型コロナウイルスは「免疫力の弱まったヒトからヒトへとヘロヘロになって感染し、かろうじて生き延びている」と考えた方が素直ではないでしょうか?!


【免疫力を高めるためには、適度に運動してストレス解消することが大切!】

 具体的に、新型コロナウイルス感染症対策として、どのようにして免疫力を高めれば良いのでしょうか? きっと読者の皆さんもWebや雑誌などの情報から既に「新型コロナウイルスに勝つための免疫力アップ」といった情報を耳にしていることと思います。「十分な睡眠、バランスの良い食事、そして、適度な運動」がほぼ共通する免疫力アップの方法で、筆者もこの考えに同感です。バランスの良い食事については、表12をご覧ください。あくまで参考ですが、筆者が常食し、誰でも無理なく摂食できる食材を黄色のマーカーで示しました。特に、夏バテも気になる時期ですので、意識的に摂食することをお薦めします。

表12:免疫力を高める食品類・項目ごとの一覧

 腸活を代表する用語に、プロバイオティクス(probiotics)が挙げられますが、これは、抗生物質(antibiotics)に対比する用語で、共生を意味するプロバイオシス(probiosis;pro 共に、~のために、biosis 生きる)が語源です。イギリスの微生物学者Fullerが1989年の定義した「腸内フローラのバランスを改善することにより、有益な作用をもたらす生きた微生物」の意味です。今では、善玉微生物を含む食品(ヨーグルトや乳酸菌飲料)自身をプロバイオティクスと呼ぶのが普通になっています。プロバイオティクスの持つ有益な作用として、「下痢や便秘を抑える」「腸内の良い菌を増やして悪い菌を減らす」「腸内環境を改善する」「腸内の感染を予防する」「免疫力を回復させる」という5つの作用が定義されています。毎日、意識的に乳酸菌入り食品を摂ることは、筆者が15年以上続けている経験からも強くお薦めします。


 このコラムの最後で、筆者が強調したいことは、ストレスを溜めないことです!
 図36に、ストレス解消に役立つとされている栄養素をまとめてみました。異例な状況だからこそ、日頃あまり気にされていない食べ物とその食べ物が持つ素晴らしい栄養素の働きに目を向けてみると良いでしょう。特に、「私は神経質な方で感染が気になって仕方がない」と自覚されている方は、食べ物にこだわることが一番のストレス解消になると思います。図37に筆者がお伝えしたい日常生活におけるストレス解消法を示します。いまだに、毎日、テレビやラジオのニュースで、「どこそこで何人感染者が出ました」と報道されています。筆者はその報道を耳にする度に、「取材内容が足りないだろうかが!」と毎度思います。「だからどうしたの?その感染者と判定された方の大半は無症状か鼻かぜ程度でしょ!」くらいに聞き流して、一喜一憂することなく普通に生活すれば良いのです。「可能な限り3密を避けて、人込みの中ではマスクをして、うがい・手洗いを励行すれば」過剰反応して家に閉じこもったりする必要はありません。寧ろ、長期の自粛要請で、外出することが億劫になっている心理状態の方が問題です。

図36:ストレス解消に役立つとされている栄養素い

 これまでに、複数の医師や免疫学者が、臨床結果などを基に「病は気から!病と闘う気持ちを持ったヒトとそうでないヒトの治癒率に差がある」ということを新聞、雑誌、テレビなどの媒体で啓発したきたことは周知の事実です。特に、「笑うことが最大の免疫力アップ法」ということは読者の皆さんもご存知かと思います。図37に示したのは日常生活に関わることですが、夏季~秋季は、行楽に最適な季節です。海へ、山へそして、海外からの観光客のいない、静かな日本の原風景を求めて京都や奈良を散策してみるのも良いでしょう。  生活をできる限り普通に戻し、気持ちを楽にすることが何より大切です!
(文章責任:川上 裕司)

図37:日常生活で免疫力をアップさせるためのストレス解消法

[参考文献]
村口篤 監修(2005)免疫・アレルギーの本,pp.155,日刊工業新聞社.
奥村 康(2020)健康常識はウソだらけ コロナにも負けない免疫力アップ,pp.206,ワック株式会社.
熊ノ郷 淳(2017)免疫ペディア〜101のイラストで免疫学・臨床免疫学に強くなる! ,pp.317,羊土社.
小林弘幸(2020)ESSE健康シリーズ/100年生きる免疫力UPごはん,pp.83,扶桑社.
田口文広(2003)SARSコロナウイルス,ウイルス,53(2),201-209.
EYES/岸本忠三・稲葉カヨ対談(2015)樹状細胞は主要な抗原提示細胞、司令塔役のヘルパーT細胞に抗原を特異的に提示,千里ライフサイエンス振興団ニュース,2-6.
Grifoni, A. et al. (2015): Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals.
Cell (2020) DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.015.
C Raina Maclntyre, et al. (2015): "A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workes." BMJ Open, Vol.5, e006577.
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(2020年6月26日)


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