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新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室 環境微生物学の研究者の立場から〜
第13回:季節の変わり目にすべき新型コロナウイルス対策(2)
~秋掃除の勧め:ハウスダストを貯留させず、
加湿器の点検を行いましょう!~

 前回、コラム12では各自が、「過去に風邪症候群に罹患した際の状況を思い起こして、同じ状況にならないよう自覚すること」、そして、「コロナ渦の中で、ワクチン接種の意義について考えてみること」について解説しました。
 今回のコラムでは、「新型コロナウイルス感染症」の予防として、取り組むべき具体策として、「秋掃除の勧め」について解説します。


【秋季にピークとなる生物アレルゲンを除去しましょう】
  筆者は、凡そ30年に渡って室内環境における生物アレルゲン(ダニ・微小昆虫・カビ等)の研究を行ってきました。研究成果を関連学会に論文として発表すると共に、当研究所の使命として、新聞・雑誌・テレビ番組を通じて一般の方々に解り易く啓発してきました。今回のコロナ渦で、「消毒用エタノール」の使用がほぼ100%の国民に知れ渡ったものと思いますが、24年前(平成8年=1996年)に、フジテレビの朝の情報番組『めざましテレビ(コーナー枠:すぐに役立つ知っ得事典!)』で筆者が初めて「家庭のカビ退治に消毒用エタノール」と紹介したのがテレビでの啓発第1号です。因みに、一般にも良く認知されるようになった「知っ得」(知っていると得するミニ知識)は、この番組のコーナー名が起源です。

 今回のコラムの本題である「秋掃除の勧め」は、著者らの研究グループが一般住宅のハウスダストと空中浮遊真菌を継続的に調査した研究結果に基づき、産経新聞の文化面に8年前(平成24年=2012年10月17日)に紹介されたのが最初です。以後、複数の新聞、雑誌、テレビやラジオの情報番組で啓発してきました。その趣旨は、『ダニ・カビ・チャタテムシなどのアレルゲン生物は春季から夏季にかけて増加し、秋季にピークに達してハウスダスト中に貯留する。それを年末まで放置するのではなく、窓を開放しても寒くない10月初旬~11月中旬までに前倒しして大掃除を済ませよう!』とうことです。今ではテレビのお天気キャスターなどが同様な啓発をされています。

 図48に、調査データの1例として、室内の生物アレルゲンの最重要種であるコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)の寝室の床とベッドにおける季節変動を示します。このグラフは、東京都および近県に所在する38軒の住宅を対象として、寝室および寝具のハウスダストに含まれるアレルゲン生物の分布状況と春季・夏季・秋季の3シーズンの季節変動を調査して論文化したデータの1部です。

 38軒から分離されたコナヒョウヒダニの総数は寝具で8,783頭、床で30,927頭でした。コナヒョウヒダニ由来ダニ抗原Der f 1の(糞と微細な破片)は、近縁種のヤケヒョウヒダニの由来ダニ抗原Der p 1より有意に多い傾向が示唆されました。また、コナヒョウヒダニおよびチャタテムシ(booklice=ダニとは異なるアレルゲンLip b1)は、春季よりも夏季と秋季に増加する傾向が見られました。また、コナヒョウヒダニとチャタテムシは、フローリングよりも絨毯や畳の方が多くなることが統計学的(有意に多い)にも明らかになりました。さらに,コナヒョウヒダニとチャタテムシは床の掃除頻度が多いほど,有意に少なくなることも解りました。


図48:アレルギー性疾患の注視すべきアレルゲン「コナヒョウヒダニ」とそのダニ抗原(Der f1)の寝室(ベッドと床)における季節変動

 就寝中の枕元における空気中のDer f 1濃度は、リビングルームの10倍にも達するとの報告があり、筆者は寝室の浮遊真菌濃度は深夜から早朝に増加する傾向があることを報告しています。居住者は一日の1/3に当たる8時間前後を過ごす寝室において、ダニやカビなどの生物アレルゲンが増加した場合には高頻度で曝露され、アレルギー疾患(アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎など)を発症、助長させる危険性が高いことが懸念されます。

 アレルギー性鼻炎の三大症状は「鼻水、鼻づまり、くしゃみ」です。目のかゆみや喉の痛み、眠気、倦怠感など全身の症状が出ることがあり、風邪症候群と同様の症状が出ることもあります。また、アレルギー性鼻炎の症状が出ている時に風邪症候群に罹患すると、鼻水はサラサラした水のようなものから、粘り気のある黄色いものに変化することもあります。通年性アレルギー性鼻炎の場合でも、アレルゲンを多く吸い込んだ場合には喉の痛みがでることがあります。喉の痛みや違和感が続く場合には、「喉頭アレルギー」かもしれません。喉頭アレルギーの二大症状は、「喉の違和感と、しつこい咳」です。喉の違和感が強くなると痛みとして感じることもあるようです。アレルギー性鼻炎の症状が強くなると、鼻づまりによって鼻呼吸ができず、口呼吸になるため、喉頭に到達するアレルゲン量が多くなり、喉頭アレルギーが起こりやすくなるようですが、問題は、「口呼吸によってウイルスも侵入し易くなる」といことです

 新型コロナウイルス感染症と秋掃除の関連性をお判りいただけたと思います。冬季にマスクをする効果は、空気の乾燥から喉の粘膜を守り、繊毛運動を正常に保つことです。そして、口呼吸は感染症予防の大敵です。また、アレルギー性疾患で咳が出るような場合、公共交通機関の車内で、周りの乗客から「新型コロナウイルス感染症に罹患したのでは?」と要らぬ疑いをかけられることになりかねません。
 エアコンの冷暖房を使わない10月初旬~11月初旬は、窓を大きく開放して十分換気しながら大掃除するのに適しています。大型のカーペットやカーテンも良く乾きますので、晴天の日を選んで2~3回に分けて大掃除を行うことをお勧めします。


【今年は必ず、加湿器のメンテナンスをしましょう】
 年始から年度末の3月にかけて、品切れ状態になるくらい事務所用の大型空気清浄機が売れました。住宅用空気清浄機の売れ行きも好調だったようです。コロナ渦の中、これから年末にかけて「加湿器」の需要が高まることは間違いないでしょう。

 コラム6で述べた通り、室内の相対湿度によってウイルスの活性が高くなったり、カビの繁殖を助長させたりすることが知られています(図49)。新型コロナウイルス感染症や季節型インフルエンザの予防対策ばかりに囚われて、加湿器を過剰に稼働させて高湿度になると、冬季でもアレルギー性のあるカビが繁殖しますので、要注意です。
 加湿器内のカビ繁殖については、既に、テレビや新聞でも取り上げられていますので、読者の皆様もご存知かと思います。


図49:ウイルスの活性が高まる相対湿度とカビの繁殖が高まる相対湿度の違い


 では、数年使った加湿器のメンテナンスはしっかりできているのでしょうか? 筆者らの研究グループが調べた結果を図50に示します。調査した加湿器は一般住宅で使用されていた計12台で、メーカーは7社、すべて異なるモデルです。加湿方式は「空気清浄機能を有する気化式が7台、気化式+温風気化式のハイブリッド式が2台、超音波式が3台」です。検査部位は、①吹き出し口、②フィルターまたは超音波パネル付近、③水タンク用キャップの内部の3か所として、滅菌綿棒による拭き取り検査(約100cm2)を行いました。合わせて、所有者の聞き取り調査も実施しました。

図50:保管してあった加湿器(加湿方式別)の微生物汚染度検査(3箇所を検査)

 この調査の結果、加湿器の取扱説明書に準じたメンテナンスをしている加湿器は12台中2台だけでした。また、超音波式加湿器の中には、使用毎に超音波パネル周囲の清掃メンテナンスを推奨している機種もありましたが、「1シーズンの使用期間中、メンテナンスはしていない」または「1シーズン中に数回程度のみ」との回答が大半でした。超音波式加湿器は手軽であるがゆえに、清掃メンテナンスを怠る傾向があるようです。

 微生物検査の結果、①吹き出し口は、8台が検出下限以下でしたが、超音波式と気化式でカビが分離され、超音波式の加湿器から最大で100,000cfu/100cm2のカビが分離されました。②フィルター/超音波パネル付近は、空気清浄機能無しの加湿器からは1,000cfu/100cm2以上のカビが分離されました。空気清浄機能付き気化式加湿器のフィルターはカビの分離数は少数でしたが、カビ汚染痕が目立つ加湿器もありました。空気清浄フィルターによってきれいな空気を提供していたとしても、カビの胞子を含んだ空気が最終的に供給されていたものと推察されます。
 微生物の分離数が最も多かったのは③タンク内で10,000,000cfu/100cm2以上のカビが分離された加湿器もありました。


 分離菌数が多い加湿器からは、赤色酵母Rhodotorula spp.)が多数分離されました。フィルター/超音波パネル付近ではクロカビ属菌Cladosporium spp.)も多く分離されました。 他に、アオカビ属菌(Pnenicillium spp.)やコウジカビ属菌(Aspergillus spp.)などアレルギー性喘息の原因になるカビが分離されました。また、タンク内に前年の水が残っていた場合、細菌が生き残って残存する可能性が高く、Bacillus属やClostridium属などの芽胞菌が含まれることが懸念されます。

 今シーズンは、新型コロナウイルス感染症対策として、初めて加湿器を使い始める方も多いと思われます。加湿器を使い始める前に、取扱説明書をよく読んで、1シーズン中も週に1度のメンテナンスが必要です。メンテナンスには、取り外せるものは外して良く水洗いし、取り外せないものは、消毒用エタノールや弱酸性次亜塩素水を使用して拭き取りメンテナンスを行うことをお勧めします。

 「新型コロナウイルス感染症」にばかり気を撮られて、病原細菌や病原真菌による疾病に罹患するようなことがないよう「広い視野で感染症」をとらえてみましょう。
(文章責任:川上 裕司)

[参考文献]
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産経新聞(2012年10月17日)・川上裕司/取材記事:ダニやカビ,秋掃除で一層~寝室やリビングを重点的に,浴室のクロカビは専用剤で~.
産経新聞(2014年10月20日)・川上裕司/取材記事:ダニ,カビ増殖を抑え快適に~アレルギー対策に「秋掃除」,室内に浮遊するカビ,冬も増殖~.

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MEDLEY アレルギー性鼻炎
学が専門の柳雄介九州大教授に聞く


(2020年10月12日)


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