(39)ダニが熟成を助けるチーズ

 チーズやヨーグルト、味噌などの発酵食品は、発酵から熟成に至る過程で、微生物や食材自体の酵素によって、軟らかくなったり、旨味が引き出されたりしておいしくなります。
 西洋の食文化に欠かせないチーズは、乳酸菌やアオカビの働きによって発酵から熟成が促進されます。ブルーチーズやカマンベールチーズが日本人に馴染みの深いチーズの代表的ですが、西洋人はハードタイプやセミハードタイプの硬いチーズも好まれています。
 中でも人気が高いのは、中身が美しいオレンジ色の「ミモレット」です。



 表面は茶褐色〜黄土色をしており、表面にクレーター状の穴がたくさん空いており、一見すると表面に粉が吹いているように見える硬いチーズです。このチーズの大きな特徴は熟成時にダニを使うことです。チーズ表面の穴はダニがもぐりこんだ痕です。オレンジ色はダニの効果ではなく、ベニノキの趣旨から抽出した食用色素(アナトー色素)によって着色されています。
 製法は他のチーズと同様に、牛やヤギの乳に含まれるたんぱく質を凝固させ、凝固したたんぱく質を圧搾して水分を取り除いたものを原料にします。次に、チーズダニと称される「アシブトコナダニ:学名アカルス・シロ(Acarus siro)」を付着させて、チーズ表面でダニを大量に繁殖させながら熟成させます。



 なぜダニを用いるのかというと、熟成過程でチーズダニがチーズの表面を食べて凹凸を作るとことで、表面積が増加し、内部の水分が蒸発しやすくなるからです。熟成期間が短いと弾力がありますが、熟成期間が長くなるにしたがって硬くなり、味も濃縮されて濃厚になります。
 ダニが食べていた表面の部分はパサパサしていて美味しくないため、取り除いてオレンジ色の部分のみを食べます。チーズ専門店などを除き、店頭で見かけるミモレットの多くはオレンジ色の部分だけを切り出したものです。  一般的にダニはハウスダストアレルギーや感染症(細菌・ウイルス)の媒介者として著名なため、害虫としての印象が非常に強いですが、人に疾病の原因や農作物に被害を及ぼす種は全体の10パーセント程度に過ぎません。90パーセントのダニ類は、昆虫・動物・植物の死骸を分解する生態系における貴重な分解者です。また、農業害虫の天敵として用いられるなど益虫として利用されている種類のダニもいます。


 年末年始に食卓にチーズが並ぶこともあるでしょう。チーズと言えばワインと連想しますが、長期熟成のミモレットの味は「からすみ」にたとえられ、日本酒にも良く合うようです。是非、お試しください。


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(2016.12.26更新 エフシージー総合研究所 環境科学研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は1月13日(金)を予定しています。

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