(28)ラガービールとエールビール

 猛暑の日が続き、ビールがおいしい季節になりました。ビールも、日本酒やワインと同様にアルコール発酵で作られていますが、それを司るのが菌類の仲間です。ご存知のように、ワインはブドウ、日本酒は米、ビールは大麦の麦芽の煮汁(麦汁)を原料としています。

 グルコースやショ糖などの糖を分解して、エタノールと二酸化炭素(炭酸ガス)を生じる代謝のプロセスがアルコール発酵です。そして、麦汁に含まれる糖を酵母菌が分解することでできるのがビールです。麦汁にホップと呼ばれるつる性植物の雌花を加えることによって、ビールの苦みを出します。ホップには抗菌成分が含まれているため、発酵中に他の微生物が繁殖するのを抑えて保存性を高める働きもあります。ビール製造に使われる酵母菌はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)で、日本酒やワインをはじめとする酒類や、パンを作る際のパン酵母としても広く使われています。様々な性質の系統(酵母菌株)が存在し、それぞれの材料や製法に適した特性を持つ酵母菌株が古くから使われています。




 製造方法や使われる菌株の種類によりビールの種類は異なり、「ラガービール」と「エールビール」に大別されます。
 大手メーカーが作るビールの多くが「きりっとしたのど越し」の特徴を持っています。これはラガービールという種類です。10℃前後でも活動できる酵母菌株を利用して、低温環境で麦汁をゆっくりと発酵させます。このため雑味が無く麦汁とホップの味が強調されます。ラガービールの発酵は、発酵過程で役目を終えた酵母が貯蔵タンクの底にたまるため下面発酵とも呼ばれます。元々は、冬季に洞窟内で貯蔵していたため「貯蔵=ラガー」の名前となりました。低温で発酵させるため、他の微生物の繁殖を防止でき、発酵がゆっくり均一に進むので大量生産に向いています。


 ラガービールに対してエールビールという種類もあります。発酵温度は15〜20℃の常温で、ラガーよりも短期間の発酵になります。発酵温度を冷蔵管理する必要がありませんので、ラガービールよりも古くからこの方法でビールが作られてきました。エールビールの発酵温度では、酵素がアルコール発酵と共に様々な香味成分を生産するため、ラガービールよりも風味を持つ「フルーティーな味」になるのが特徴です。発酵温度が異なるため、ラガーで利用されている種類とは異なる酵母菌株が使われています。泡になって酵母が浮くため、エールビールの発酵は上面発酵と呼ばれています。


 常温での発酵は他の微生物も繁殖できる環境であるため、微生物の混入を防ぐための衛生管理が重要です。そのため、大規模製造には向いていませんでした。しかしながら、現在では微生物混入の防止技術が発展したことにより、大量生産できるようになり、一般小売店などでも購入できるようになりました。
 この夏は、そんなビールの作り方の違いを知ってラガービールとエールビールを飲み比べてみてはいかがでしょうか。


【関連キーワード】 
アルコール発酵,ビール製造,酵母菌,サッカロマイセス・セレビシエ,Saccharomyces cerevisiae,パン酵母,ラガービール,エールビール,貯蔵


(2016.7.22更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は8月5日(金)を予定しています。

IPM研究室

IPM研究室
室内環境の有害物質を調査し、対策を研究・ご提案します。特に「室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究」を主たる仕事としています。研究や調査のご依頼がある場合は、お気軽にお問い合わせください。【IPM研究室はこちら】