(35)昆虫の越冬

 9月は停滞前線がもたらす雨の日が続き、正に秋の長雨、秋霖といった感がありました。
 10月に入り晴天日も多くなり、衣替えをした方も多いのではないでしょうか。イヌやネコも寒くなると毛が生え変わり冬毛となる季節です。
 熊やヤマネなどの恒温動物の一部は体温を低下させて食料の少ない冬季を過ごすことを冬眠と呼びます。変温動物の昆虫類は休眠(きゅうみん)という活動を停止した状態で冬を越します。



 休眠に入る発育ステージ(卵、幼虫、蛹、成虫)は様々で、カマキリの様に卵で越冬するもの、幼虫のカブトムシや、蛹のクロアゲハもいます。これは種によって、体の凍結を防御するシステムが異なるためです。卵で越冬する場合は、乾燥や低温に耐えられるような強固な殻をもつ休眠用の卵(休眠卵)が常緑樹の葉の裏などに産み付けられます。幼虫、蛹、成虫で越冬する場合には、凍結開始温度を低下させる糖分などの成分をあらかじめ体内で合成することによって、低温で体液が凍らないようにした上で休眠に入ります。また、0℃以下に耐えられる防御システムを持ち冬に活動する昆虫もいます。フユシャクの仲間は冬季に成虫になる蛾です。セッケイカワゲラは雪上で見られる昆虫で、俳句では春の季語「雪虫」とも呼ばれています。北海道で雪の降る前に発生する「雪虫」はアブラムシの仲間で、セッケイカワゲラと別の昆虫です。


 松などの街路樹にわらを巻いてあるのを見たことがあるでしょうか。これは木の防寒対策ではなく「こも巻き」と呼ぶ、江戸時代から続く害虫駆除の方法で、主に松の葉を食害する蛾(マツカレハ)の幼虫(蛾)を駆除する目的で行われます。本格的に寒さが厳しくなる前の10月〜11月に、こもと呼ばれる藁を巻いて、内部で害虫を越冬させます。そして、啓蟄(3月5日頃)頃にこも巻きを取り外し、越冬虫ごと燃やして駆除します。しかしながら、こも内にはクモをはじめとしたマツカレハの天敵も越冬することもあります。天敵となる益虫も一緒に燃やしてしまうリスクがあることから、こも巻きはかえって逆効果であるとも言われています。皇居外苑や京都御苑など著名な庭園では、既に中止したところもありますが、伝統行事として、行っている地方自治体もあります。


 幼虫や成虫で越冬する昆虫は群れとなって1か所に集まり冬眠します。中でもカメムシ類やテントウムシ類が有名で、森林内では剥がれかかっている木の表皮の隙間や橋の下の隙間などで越冬します。山間部の住宅や別荘、保養所など戸袋や外壁の隙間などに越冬虫が大量に侵入して不快な被害を及ぼすことが多々あります。見た目の不快感だけでなく、悪臭や建材の変色原因にもなります。アメリカでは、越冬のために家屋内に大量に浸入したテントウムシ類が原因の昆虫アレルギーが報告されています。自宅の庭や戸袋内の害虫の越冬を阻止する手段としては、外壁に沿った場所に薪や庭仕事の道具などを行いこと。また、雑草や落葉をきれいに除去しておくことが決め手です。


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(2016.10.28更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は11月11日(金)を予定しています。

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