(26)カタツムリと寄生虫

 紫陽花とともに梅雨時期の顔とも言えるカタツムリですが、陸産貝類(陸貝)のうち殻のないものを大雑把に「ナメクジ」、殻を持つものを「カタツムリ」または「デンデンムシ」と呼んでいます。進化の過程で肺呼吸を獲得して陸上に適応した巻貝の仲間です。高温多湿で降雨量の多い日本には、約700種のカタツムリが生息していますが、最も普通に見られるのが殻の直径が2センチ以上になるミスジマイマイ(写真)とヒダリマキマイマイです。カタツムリは葉や苔などの植物質を餌としていますが、殻を作るためのカルシウム分を補給する必要があるためコンクリート塀から染み出した炭酸カルシウムも食べます。雨の日に住宅のブロック塀で見かけることが多いのはこのためです。カタツムリの行動半径は通常数メートルで、長距離を移動できないため、一度生息数が減少すると回復が難しくなります。都市部などで雑草地が無くなるとカタツムリの生息密度も下がるようです。


 一見して害虫に見えないカタツムリですが、農作物の害虫になることもあります。また、意外に知られていない生態として、病原体の媒介者になることもあります。カタツムリには広東住血線虫という人に感染する危険性のある線虫が寄生します。線虫は、土壌、河川、池などの自然環境に生息する線状の生物です。寄生性の無い種類からカイチュウやギョウチュウなど動物に寄生する種類、植物に寄生する種類など、様々な線虫がいます。広東住血線虫の終宿主はドブネズミとクマネズミです。感染したネズミの糞から、中間宿主であるカタツムリやナメクジを経由して、中間宿主を食べたネズミに再び感染するサイクルです。



 中間宿主として最重要視されているのは沖縄、小笠原、奄美大島等に生息する大型のアフリカマイマイで、その他数種のマイマイやナメクジが中間宿主になります。また、アジアヒキガエルなどのカエルや淡水産のエビ、リンゴガイ(ジャンボタニシ)なども感染源になります。人には、中間宿主であるカタツムリやナメクジに汚染された食品や中間宿主を触った手を通じて経口感染します。民間療法としてこれらの中間宿主を生で食べたことで感染した事例が知られています。広東住血線虫に感染すると、2週間ほどの潜伏期間の後、発熱、激しい頭痛や嘔吐などの髄膜炎症状を引き起こします。人の体内では成虫になることができず自然に死滅するため、多くの場合は回復します。しかしながら、多数の線虫に一度に感染すると重症化して視力障害や最悪の場合死につながることもあります。生きているカタツムリやナメクジの体内に寄生しているため、外側を触るだけでは感染はしませんが、傷口から経皮的に感染することがあります。


 感染するための経路が限られているため国内での広東住血線虫による症例は稀です。しかし非常に少数ですが、寄生されているカタツムリやナメクジは全国的に見つかっています。小さなお子さんは口を手で触れる機会も多いため特に注意が必要です。カタツムリを触った後は必ず石鹸で手を洗うようにしてください。


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(2016.6.24更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は7月8日(金)を予定しています。

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