(25)鰹節づくりに欠かせないカビとアレルギー

 鰹節は和食に欠かせない和食文化の象徴ですが、生のカツオを鰹節にするまでの工程でカビが有効利用されているのをご存知でしょうか。カツオの切り身を加熱乾燥させ、これにカビを接種して繁殖させます。カビが水分を吸収し、カツオは徐々に堅くなっていきます。この過程は「カビ付け」といわれ、何度も繰り返します。枯れ節になるためには最短でも数カ月、本枯れ節になるには1年以上にわたり徹底乾燥・熟成します。カビ付けにはカワキコウジカビ(ユーロチウム・ハーパリオラムやユーロチウム・レペンス)が使われています。


 湿った場所を好むクロカビと異なり、カワキコウジカビは乾燥した場所を好み、自然乾燥では取り切れないカツオの水分を吸収蒸発させることができます。また、カビが成長する過程で、カツオに含まれる成分を分解してイノシン酸やグルタミン酸などの作りうま味を熟成し、また香味を増すことができます。さらに、カビが脂肪分を分解するため、脂分が少ない澄み切った出汁を作ることができるようになります。



 このように鰹節づくりで古くから利用されてきたカワキコウジカビですが、悪い面も持ち合わせています。書籍・書画・版画・表具・水彩画などの文化財に茶褐色の斑点(フォクシング)を形成するのもカワキコウジカビの仕業です。刀剣の錆びの原因にもなります。そのため、美術館や博物館の収蔵品の大敵です。カワキコウジカビは、木材や畳のイグサなどの植物質に生えやすいため住宅の建材や家具の汚損カビとしても知られています。


 カワキコウジカビは、長らく人体には無害だと考えられていましたが、東日本大震災被災地の仮設住宅に住んでいる方を診察したところ、カワキコウジカビに喘息症状を示す患者が見つかりました。カビのアレルギー症は慢性的に大量の胞子の吸い込むことで引き起こされます。仮設住宅は短期間に安価で多数の住居を提供することが目的ですので、長期間住むように考えられていない住宅です。断熱材の量が一般住宅よりも少なく、換気性能も低いため結露が発生しやすい構造になってしまいます。その結果、多くの仮設住宅で、カワキコウジカビなどによるカビ汚染が発生しています。この事例は、仮設住宅という特殊な環境での事例ですが、一般の住宅でも結露が原因で、押入れや家具の裏にカワキコウジカビが発生することがあります。


 現在、鰹節に利用されているカビは、アミノ酸や香味成分の生産力など鰹節の熟成に最適な特性と安全性を持つ選抜されたカビが使われています。また、鰹節を食べることで取り込んでしまうカビの量では、アレルギーになることはありません。


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(2016.6.10更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は6月24日(金)を予定しています。

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室内環境の有害物質を調査し、対策を研究・ご提案します。特に「室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究」を主たる仕事としています。研究や調査のご依頼がある場合は、お気軽にお問い合わせください。【IPM研究室はこちら】