(22)野山でのマダニ被害に注意!

 ひと口に「ダニ」と言ってもその種類は様々で、日本だけでも約1,800種が知られています。このうち人の血液を吸うダニは1%くらいです。住宅内でアレルギーの原因として知られているヤケヒョウヒダニ(学名 Dermatophagoides pteronyssinus)やコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)などのヒョウヒダニ類は人のフケや垢、食べ物の屑、昆虫の破片、カビなど住環境中の有機物をエサにしているダニで血液を吸うことはありません。注意すべきダニは、野外に生息しマダニ科に属するマダニ類です。マダニは、野山の草むらに普通に生息し、獣道などの草の上で野生動物を待ち伏せします。シカやイノシシなどの野生動物を吸血して、2〜3mmの大きさの体が吸血した後では1cmほどに膨れ上がり、肉眼でもはっきり判るようになります。マダニは哺乳類である人間の血液も吸います。吸血するだけではなく、日本紅斑熱、ライム病、回帰熱のほか、数年前から「殺人ダニウイルス」として大々的にマスコミで取り上げられた「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」などの病原体である細菌やウイルスを媒介します。


 日本紅斑熱は、細菌であるリケッチアの日本特有種リケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)を保菌するフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)やヤマトマダニ(Lxodes ovatus)などに刺されると感染します。年間約40人の感染者が報告されていて、治療が遅れると重症化し、死亡することがあるので要注意です。SFTSは、フタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ(Amblyomma testudinarium)がSFTSウイルスをもつマダニに刺されてから1〜2週間で発症します。主な症状は発熱や、嘔吐、下痢、腹痛などです。これまでに国立感染症研究所に報告されている患者数は172人で、そのうち27%の46人が死亡しています(図)。感染例が報告されている主な年齢は60代以上で、死亡率も報告例に伴って上昇しており、加齢による免疫力や体力の低下も発症の一因であると言えます。報告されている国内症例は重症や重篤化してからの受診が多いため、実際は軽症の事例も多いと考えられています。


 どちらの感染症も、気温が暖かくなりマダニが活発化する春から秋に感染者が集中していて、西日本での感染例が大半です。ただし、SFTSウイルスを保有しているダニは国の調査で全国的に見つかっていますので注意が必要です。SFTSウイルスはマダニと野生動物との関係性が指摘されていて、ウイルスを保有する野生動物とマダニの数が多くなると人への感染率も上がると考えられています。


 対策としては、マダニ類に刺されないことが一番。野山を散策する際には、長袖長ズボンで皮膚を直接外に出さないのが肝要です。マダニ類は呼気に含まれる二酸化炭素、体温、振動、臭いなどを感知して動物に飛びついて吸血します。虫よけ剤(忌避剤)であるディートは、感知する能力をかく乱することができるので有効です。山林の草と接する道を歩く可能性が高い場合にはディートが最大濃度含まれている医薬品の虫よけ剤を使いましょう。医薬品ですので使用上の注意をよく読み、年齢に応じた使用回数を守ることが大切です。


 今日からゴールデンウイークに入り、野山に出かける方も多いと思います。犬を飼っている方は、犬と一緒に野山を散策されるのではないでしょうか。そのような場合には、犬の耳などにマダニが付着していなかいどうか必ずチェックするようにしてください。



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(2016.5.1更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は5月13日(金)を予定しています。

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