(21)再興性害虫トコジラミの侵入に注意!

 かつて流行していた感染症が再び流行してきたような場合、「再興感染症」と呼びます。同様に、吸血を伴う刺咬害を引き起こす害虫の再流行を「再興性衛生害虫」と呼びます。本邦で、昭和40年代以降から平成10数年頃まで殆ど姿を消していて、50代の方でさえ見たことも聞いたことも無かった衛生害虫が再び流行しだしています。それがトコジラミ(学名:Cimex lectularius;俗称ナンキンムシ)です。トコジラミは、5〜8ミリくらいの赤茶色の昆虫で、10数年前頃から再び保健所などへの問い合わせやこの昆虫に刺されて皮膚科を受診する方が現れはじめました。なぜトコジラミが再び増えたのでしょうか?推察される理由の一つが、海外からの旅行者の急増です。旅行者の手荷物と共にホテルや旅館に持ち込まれ、静かに増殖して定住してしまう。次に、トコジラミが定住しているホテルや旅館に宿泊した方が自宅へ持ち帰ってしまうという流れです。


 トコジラミは、“シラミ”という和名が付けられていることからカジリムシ目ヒトジラミ科に属するアタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミと混同されますが、実は、カメムシ目(ウンカ、セミ、アメンボ、カメムシ)の仲間です。翅は退化しているため飛ぶことはできません。トコジラミは寝床のシラミを表し、英名のbed bug(ベッド虫)からきています。その名の通り、昼間は暗くて狭い隙間に潜んでいます。ベッドの裏やマットの隙間、畳の隙間や裏側、ソファーの隙間、壁に掛けた額や鏡の裏側、柱と壁の隙間などでじっとしており、暗くなると這い出してきて人が出す呼気に含まれる炭酸ガスを感知します。そして、就寝中の人から吸血します。蚊やノミなどの吸血性昆虫との違い、1度に大量の血液を吸うため、吸血時間が10〜20分に及ぶことも稀ではありません。初めて刺された場合にはそれほどかゆみもなく、皮疹も直ぐには現れないことが多いようです。長期間、複数回刺されると、強いかゆみが出て、刺された箇所の赤い皮疹がなかなか完治しなくなります。


 当研究室に寄せられた事例の中には、1年以上に渡ってベッドに潜んでいたトコジラミに刺され続けた女性の事例があります。東京都福祉保健局に寄せられたトコジラミに関する相談件数は、平成20年度までは年間100件以下でしたが、平成22年度には245件、平成24年度には300件を超しました。最近では、ホテルや旅館での報告だけでなく、日帰り温泉、漫画喫茶、図書館などでも発生しているようです。また、従来の殺虫剤が効きにくい薬剤抵抗性のトコジラミも登場しています。


 一般の方々の対策としては、トコジラミの存在を認識して、旅行へ出かけた際に荷物と共に自宅へ持ち込まないことが一番です。宿泊先の床に直接バッグを置かない方が賢明でしょう。また、帰宅したら、バックの中などに5〜8ミリくらいの赤茶色の昆虫が付着していないかどうか点検し、衣類は速やかに洗濯してください。もし、刺された記憶がないのに虫刺され痕が何度も見つかる場合は、皮膚科を受診しましょう。トコジラミの駆除は難しいため保健所等に相談し、専門の駆除業者を紹介してもらってください。



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(2016.4.15更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は4月29日(金)を予定しています。

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室内環境の有害物質を調査し、対策を研究・ご提案します。特に「室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究」を主たる仕事としています。研究や調査のご依頼がある場合は、お気軽にお問い合わせください。【IPM研究室はこちら】