(18)加熱しても安心できない細菌にご用心!

 市販のカレールーにはクローブやシナモンをはじめとする抗アレルギースパイスが15〜30種も含まれています。スパイスのもつ免疫調整機能を高めるためには、交換神経が活動する朝にカレーを食べるのが効果的のようです。一晩置いたカレーを朝食べるのは美味しいばかりではなく、花粉症対策にも一役買うかもしれません。しかしながら、注意すべきは加熱に強い細菌の存在です。カレー、シチュー、煮物などではウェルシュ菌(学名:クロストリジウム・ペルフリンゲンス)による食中毒が度々発生しています。


 ウェルシュ菌は、人や動物の腸管、河川、下水、土壌など広く分布する桿菌(かんきん;棒状の細菌)です。食品を汚染することが多い細菌ですが、酸素が苦手(嫌気性)なので食材に付着している時点では、酸素から守るために芽胞と呼ばれる殻を作り休眠状態になっています。この状態では殺菌剤に対する耐性が非常に高く100度の熱にも耐えることができるため、ウェルシュ菌を殺菌しきれないことがあります。通常の加熱処理や家庭での加熱調理で、大部分の細菌やカビが死滅しますが、芽胞を持ったウェルシュ菌だけが生き残ってしまいます。


 カレーなどドロドロした粘性のある食材を加熱すると、中心部やなべ底などで水に溶けていた酸素が無くなりウェルシュ菌に適した嫌気状態になります。そして料理が冷めて生育適温である30〜47℃になると、芽胞を破り細胞分裂を始めます。競合する他の微生物がいないため、盛んに細胞分裂を繰り返し増殖します。ウェルシュ菌が増えても、他の好気性細菌のような腐敗臭がなく、味に変化が出にくいため気づかずに食べてしまうことが食中毒を引き起す原因です。


 ウェルシュ菌が大量に増殖した食品を食べてしまうと、小腸の消化液などから身を守るため再び芽胞の状態に戻ります。この際に作る毒素が原因で、腹痛と下痢などの症状が出ます。このため、食後6時間以上経ってから発症します。


 一度に大量に加熱調理して、保温をする学校や飲食店、仕出し弁当屋などで主に報告されているため過去5年間の平均では報告1件あたりの患者数は74人に上り、食中毒細菌で著名な腸管出血性大腸菌O157の22人、サルモネラ属菌が30人と比べて、1件当たりの患者数が多くなるのが特徴です。ウェルシュ菌は他の食中毒と比べて症状が軽く、発症までに時間がかかります。そのため、一般家庭で発症した場合、原因不明の単なる腹痛で済まされてしまい見逃されてしまっている可能性があります。
 カレーやシチューなどの煮込み料理を翌日食べる場合には、室温に置かず、タッパーなどに入れて直ぐに冷蔵すると細菌の繁殖を防ぐことができます。




再加熱でウェルシュ菌が死滅するのか?

 芽胞になっていないウェルシュ菌は高温に弱いので、再加熱で殺菌することができます。沸騰したからとすぐに火からおろさず、しっかりとかき混ぜながら十分に煮込んでください。芽胞を破った菌を大量に食べてしまうことで食中毒が起こるので、再加熱はウェルシュ菌食中毒の予防に有効です。

 ただし、カレーの中で増殖するスピードや再び芽胞に戻るまでの時間、再度芽胞を破るタイミングなどは、室内温度やカレーの具や調味料など様々な条件で変化するので、可能な限り低温での保存が望ましいです。
 また、これからの季節、加熱では壊れない毒素を作る他の微生物が繁殖する可能性も十分あります。食べきれないとわかっている場合は、あらかじめタッパーなどに取り分けて、冷蔵か冷凍してください。

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(2016.3.4更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は3月18日(金)を予定しています。

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