(16)インフルエンザとノロウイルス
消毒用エタノールに効果があるのはどっち?

 国立感染症研究所は、1月17日から24日までの1週間で全国のインフルエンザ患者が推計で約52万人に上ったことを発表しました。この推定患者数約52万人は流行の基準値とされています。毎年、1月〜2月にインフルエンザ流行のピークが見られ、マスクや消毒用エタノールなど様々な対策商品が販売されています。インフルエンザと同様に冬季に流行する感染症としてウイルス性急性胃腸炎があります。インフルエンザはインフルエンザウイルス(オルソミクソウイルス科)が、ウイルス性急性胃腸炎は主にノロウイルス(カリシウイルス科)が引き起こします。両ウイルスとも、遺伝情報としてRNAをもつRNAウイルスですが、形態や感染様式が大きく異なります。


 インフルエンザウイルスはエンベローブと呼ばれる脂質からなる外膜を持っていますが、ノロウイルスは持っていません。エンベローブはインフルエンザウイルスが細胞内へ侵入(感染)するために使われる外膜構造です。消毒用エタノールや手洗い石鹸は、脂質を壊す効果があるため脂質膜であるエンベローブを破壊することができます。エンベローブが壊れることで、インフルエンザウイルスが活性を失い、感染できなくなります。「インフルエンザの感染対策に石鹸による手洗いが大切」という理由はここにあります。


 これに対して、エンベロープを持たないノロウイルスは、タンパク質でできたカプシドという外殻でRNAを覆っています。手を介して口から侵入し腸管に感染するノロウイルスは、エンベロープのないことで胃酸や腸管の胆汁酸に抵抗しているのです。石鹸や消毒用エタノールではタンパク質でできたカプシドを破壊する効果が無いため、ノロウイルスを不活化できません。ノロウイルスにはエタノールの効果が期待できませんが、石鹸を使った手洗いは付着しているウイルスを洗い流すために推奨されています。


 ノロウイルスを失活させる方法として、一般にキッチンの漂白剤や浴室のカビ取り剤として知られている次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用するか、または、85℃〜90℃で90秒以上加熱することでカプシドを破壊できるので有効です。老人介護施設などの集団感染でしばしば問題となる感染ルートとして、患者のふん便や吐ぶつからの拡散が挙げられます。もし家族が腹痛を訴え、嘔吐してしまった場合に慌ててふき取ることは禁物です。ゴム手袋をした上で、100倍程度に薄めたキッチン用漂白剤をタオルに含ませて、吐しゃ物を覆い、タオルと共に静かにポリエチレン袋へ移して廃棄してください。


 インフルエンザウイルスとノロウイルスは、口や鼻から吸い込むことによっても感染します。感染症予防として、マスクの着用が知られているのはこのためです。ウイルスはナノ粒子ですので、マスクの隙間から簡単に侵入することが懸念されますが、マスク着用に伴う口周辺の高湿度がウイルスの体内深在部への侵入を妨げることになります。



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(2016.2.5更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は2月19日(金)を予定しています。

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