(12)発酵食品の有用酵母菌

 発酵食品の製造に使われることで一般に良く知られている酵母は、酵母菌(コウボ)のことで、糸状菌(カビ)や担子菌(キノコ)とともに菌類(真菌)の仲間に分類されます。酵母菌は、カビのような菌糸を作らず、単細胞で楕円形をしているのが特徴で、あたかもウインナーソーセージが連なるような形から分裂して増殖します=写真。自然界では樹皮、樹液、花蜜、土壌中に普通に生息しています。


 酵母菌の種類は多種多様ですが、中でもサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は有用菌として古くから食品製造に利用されています。「アルコール発酵」を担う有用酵母菌として、ビールやワインなどの製造に使われています。その種類によって、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母,ウィスキー酵母、パン酵母などに分けられ、それぞれの製法に適した酵母が使い分けられています。また、S. cerevisiaeは、劣悪な環境にさらされると休眠するため、乾燥酵母のように生きたまま乾燥させることができます=写真。酵母菌が食品中の糖分をアルコールや炭酸ガスに分解する反応は、酵母自身が生きていくために必要な栄養素を得るために行われています。


 例えばパン作りに使われる酵母菌は、成長が早いため生地に酵母を加えてから数時間で発酵が進みます。ドライイーストは自然界に存在する酵母菌の中から発酵力の強い菌を選んで抽出して純粋培養しているもので、短時間に安定して発酵を促すことができるパン酵母です。発酵時のアルコールは、風味を残して加熱等によって生地から蒸発していき、炭酸ガスの発生でパンは膨らみます。ビールの炭酸は大麦の発酵過程で生じたものです。


 こうした発酵は、古くは、ブドウの表面や酒蔵に住み着いた酵母菌を利用していましたが、現在では高品質な製品を提供するために、より酒造りに適した性質の酵母菌を選抜し、それを培養して使っています。


 味噌や醤油の醸造にも酵母が利用されますが、こちらはジゴサッカロマイセス・ロキシー(Zygosaccharomyces rouxii)という別の種類の酵母が利用されています。この酵母はS. cerevisiaeよりも塩分に強いため、醤油や味噌など塩分濃度の高い食品の発酵ができます。


 このように様々な発酵食品に利用される酵母菌は善玉に当たりますが、酵母の種類によっては悪玉とされているものもあります。お風呂や台所の排水溝などをピンク色にしてしまう「赤色酵母」や、カンジダ症の原因菌である「カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)」は有害な酵母菌とされます。善玉酵母も悪玉酵母も普段は目に見えませんが、身の回りに普通に存在している微生物です。



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(2015.12.11更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は12月25日(金)を予定しています。

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