(10)和食文化の立役者はコウジカビ<国菌>

 微生物による有機物の分解は発酵と腐敗に分けられます。善玉菌を利用して主に糖などを分解して有機酸や炭酸ガスなどが生じる作用が発酵で、悪玉菌が主にたんぱく質を分解して有害物質と悪臭が生じる作用を腐敗とよびます。温暖で多湿な気候風土の日本は、古来より独自の発酵技術を産み出し、食文化として発展させてきました。和食に欠かせない醤油、味噌、日本酒、焼酎、みりん、米酢、鰹節などの全ての製造に、麹菌(コウジカビ)が不可欠な存在であることが特筆すべき点です。


 一般に米麹として馴染みの深い麹(こうじ)は、ニホンコウジカビをはじめとするいくつかの種類のコウジカビを、加熱した米や麦、大豆で繁殖させたものです。コウジカビは増殖するために様々な酵素を分泌してデンプンやタンパク質などを分解して栄養素とします。この際にできた分解物が麹です。米のデンプンを糖に換える役目をするのもコウジカビで、次に糖をアルコールに換えるのが酵母菌の役目です。


 東北大学の一島英治名誉教授が日本醸造協会誌の第99巻で「麹菌は国菌である」と2004年に提唱し、それを受けて2006年10月12日に日本醸造学会大会で、麹菌の代表種であるニホンコウジカビ(アスペルギルス・オリゼ;Aspergillus oryzae)、ショウユコウジカビ(アスペルギルス・ソーヤ;A. sojae)、アワモリコウジカビ(アスペルギルス・リュウキュウエンシス;A. luchuensis)の3種が国菌として認定されました。日本酒には黄麹菌と呼ばれるニホンコウジカビが、焼酎には黒麹菌と呼ばれるアワモリコウジカビが使われています。コウジカビの中には発がん物質として知られるカビ毒を作り出す悪玉菌の存在が知られていますが、長く醸造などに利用される中で悪玉菌が淘汰され、分解酵素を多く産生し、カビ毒を生産しない善玉菌集団が食品製造に利用されるようになったことが近年の研究で明らかになっています。


 コウジカビの仲間は、自然環境中の土壌や植物の表面などに普通に存在し、生活環境中にも普通に見られるカビの1群です。四方を海に囲まれた日本は、世界的にもコウジカビの種類が多い国と言っても過言ではなく、食べ物の原料となる米やイモなどの貯蔵穀類に自然発生し、発酵食品として利用されるに至ったのも理の当然かもしれません。カビによる発酵食品の代表としてチーズが知られていますが、チーズに利用されるカビはアオカビ(ペニシリウム;Penicillium属)です。また、中国の紹興酒にはクモノスカビ(リゾープス;Rhizopus属)が使われています。日本のようにコウジカビを利用するのは世界的にも稀で、「日本はコウジカビ文化の国」とも言っても良いでしょう。




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(2015.11.13更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は11月27日(金)を予定しています。

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