(9)美術作品や古本にできるシミはカビが原因

 押し入れや棚にしまって置いた絵画、書、写真、書籍に茶褐色の丸いシミができていることが良くあります。また、古本を開いた際に誰もが茶褐色の斑点を目にします。これらは同様に、フォクシング(Foxing)と呼ばれます。きつね色をした斑点が語源で西洋絵画にも同様のシミ(ステイン)ができることがあります。フォクシングの原因は鉄化合物や樹脂などいくつか知られていますが、好乾性カビが産生する酸が主たる原因です。コウジカビやカワキコウジカビの仲間であるAspergillus penicillioidesEurotium herbariorumの他に近縁の数種が知られています。


 絵画や書籍には、空気中に浮遊している微細なホコリやカビの胞子が落下して付着または貯留します。そこに適度な温度と湿気が加わると、原因となるカビの胞子が発芽して、ホコリに含まれる養分を利用して直径5ミリくらいのコロニーを形成します。増殖する過程で菌糸の周辺にL-リンゴ酸などの有機酸が代謝生成されて、紙のセルロース繊維の間に蓄積されます。そのうち紙が酸分解して、セロオリゴ糖やブドウ糖が生成されます。また、カビが増殖する際にアミノ酸が生産されます。この結果、ブドウ糖と有機酸の間に褐変反応(メイラード反応)が誘起されてフォクシングとなります。


 これらフォクシングの原因カビが好乾性カビで、他のカビよりも乾燥を好み、湿度70%前後、温度20~35℃から成長することができます。展示中に空気を通じて付着したカビ胞子が収蔵中に成長し、気づいた時にはフォクシングを作ってしまっています。日本は、高温多湿な気候からフォクシングの被害が発生しやすいと言えます。また、紙や木材などカビに汚染されやすい素材が多いため、美術品や文化財の保存を誤ると、フォクシングの被害が甚大になります。


 フォクシングの原因カビは、一般住宅にも極めて普通に存在しています。住宅内では靴やカバンなどの皮製品、衣類や敷物などの布製品で発生しやすいのが特徴です。湿気とホコリのついた箇所を中心にゆっくり発育し、気づいた時には表面に黄色または白灰色のカビ集落を作ります。衣類を数か月以上しまう際には、必ずクリーニングしてから防カビ成分を含んだ防虫剤とともに防湿効果のある衣類ケースに入れましょう。また、好乾性カビはハウスダスト中にも多く潜んでいるため、居住者が吸入してアレルギー症状を引き起こすことがあります。空気中に浮遊しているカビを連続的に吸い込む機会が多い寝室と寝具のハウスダスト除去をこまめに行うことが大切です。そのためには、吸引力の高い掃除機を使った清掃による発生源対策と吸引力の高い空気清浄機による浮遊カビ対策を併用するとよいでしょう。




【関連キーワード】 
シミ,原因カビ,フォクシング,Foxing,コウジカビ,カワキコウジカビAspergillus penicillioides,Eurotium herbariorum



(2015.10.30更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は11月13日(金)を予定しています。

IPM研究室

IPM研究室
室内環境の有害物質を調査し、対策を研究・ご提案します。特に「室内環境中で健康被害を及ぼすダニ・微小昆虫類・カビなどの研究」を主たる仕事としています。研究や調査のご依頼がある場合は、お気軽にお問い合わせください。【IPM研究室はこちら】