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カビ調査から見た
収蔵庫の環境管理と重要性

 美術館・博物館で保管している美術品や文化財は、カビや昆虫類をはじめとした有害生物により、フォクシングや劣化、食害などの汚損が発生する可能性があります。汚損から収蔵物を守るために、近年では総合的有害生物管理(IPM)と呼ばれる「有害生物の発生予察(モニタリング)に基づく、予防を含めた総合的な防除計画と管理対策」が欠かせないものとなっています。

 石器や土器などの考古資料を扱っている某市立博物館では、収蔵庫におけるカビのモニタリングを継続して実施し、その結果をもとに収蔵品の燻蒸殺菌を行っています。当研究室では、収蔵庫で採取されたカビの培養と分析を2013年〜2019年までの間に計13回実施しています。今回はその調査結果をご紹介します。

付着カビの調査方法

 本博物館の収蔵庫は計3室(A~C)で、付着カビは収蔵庫Aでは2箇所、収蔵庫BとCでは1箇所ずつの計4箇所から採取しました。また、各調査で採取箇所は異なり、棚や箱、作品自体などから採取しています。

 滅菌スタンプ瓶を用いて測定箇所の表面100cm2(10cm×10cm)に押しつけた後、その場で新しいDG18平板培地にカビを写し取る方法で採取し、平板培地は25℃で7~10日間培養しました。発生したカビ集落(コロニー)を計数した後、色や形態の異なる集落を新しい培地に植菌し、前述と同様の条件下で2次培養を行い、コロニーの色や形、菌糸の微細構造などから菌種を同定しました。

付着カビの調査結果

 13回の付着カビ調査結果をグラフ1に示します。2013年7月には収蔵庫A-2で、2014年9月には収蔵庫Bで、酵母類が多数分離されたため計測困難となりました。収蔵庫A-2とBでは酵母類が分離菌種の多くを占めていました(グラフ2)。

 2015年10月の収蔵庫A-1(69cfu/100cm2)、2018年11月の収蔵庫A-1、B(56cfu/100cm2;46cfu/100cm2)などで菌数が多く(グラフ1)、種類はCladosporium属菌(クロカビ)とPenicillium属菌(アオカビ)が分離されました。クロカビとアオカビは定期的に分離され、酵母に次ぐ分離数でした(グラフ2)。

 クロカビやアオカビ、酵母類は一般的な住環境や自然環境中では普通に存在するカビです。一方で収蔵庫のように気温や湿度が管理されている環境で増殖する可能性は低く、外気や荷物に付着して収蔵庫内に入ったものと推察されます。

グラフ1 各収蔵庫における付着カビの推移
グラフ2 各収蔵庫における付着カビ総数と内訳

浮遊カビの調査方法

 浮遊菌測定用のエアーサンプラーを用いて、DG18寒天平板培地に1箇所あたり100Lの空気を吹き付けて浮遊カビを捕集しました。平板培地の培養~計数、同定は付着カビ調査と同じ方法にて行いました。培地上に分離された菌数を基にエアーサンプラー専用の計算式で1m3当たりの菌数を算出しました。

浮遊カビ調査結果

 当研究室では、様々な美術館博物館の調査経験から、館内の環境維持基準として浮遊カビ数100cfu/m3を目安としています。2014年の7月における収蔵庫B、Cでは基準値を超える700cfu/m3と170cfu/m3の浮遊カビが分離されました(グラフ3)。浮遊カビの増加は、調査前に外気が長時間流入した、カビが付着した物品が持ち込まれたなどによって引き起こされたと推察されました。

 2014年の7月に浮遊カビが多数分離された影響で、収蔵庫Bの菌数は他の収蔵庫の倍以上分離されました(グラフ4)。カビの内訳はクロカビや白色糸状菌(胞子形成の無い菌糸のみのカビの総称)によるものでした。これらは収蔵庫AとCにおいても分離されています。各収蔵庫共に、まったくカビが分離されないこともあり、分離された総菌数は付着菌よりも少数でした。分離菌種数は14種類と付着カビの20種類と比べて少数でした。

グラフ3 各収蔵庫における浮遊カビの推移
グラフ4 各収蔵庫における浮遊カビ分離数と内訳

まとめ

 調査の結果から、本収蔵庫内でのカビ汚染は発生していないため燻蒸殺菌の必要もなく、収蔵庫は適切に管理されていることが示唆されました。

 しかしながら、収蔵庫外から流入した真菌の分離がありました。これらのカビは収蔵庫内で増殖しませんが、菌食性の昆虫のエサとなり、ひいてはカビや昆虫類の死がいが好乾性の汚損カビの栄養分となることが懸念されます。そのため棚や箱、台座などカビの流入が疑われる箇所の定期的な清掃を計画し、汚損カビの増殖を予防することが重要です。カビは微粒子を完全に捕集できる掃除機を用いた塵埃の吸引と消毒用エタノールを用いた拭き取り清掃によって比較的簡単に除去できます。

 美術品や文化財を汚損する種類のカビとして、コウジカビの一種であるAspergillus penicillioidesA.restrictusが属するA. section Restrictiや、カワキコウジカビの仲間(旧Eurotium属)などの一部の好乾性カビが知られています。本収蔵庫内は汚損カビが全く存在していない訳ではないので要注意。汚損カビは相対湿度が65%以上で活動し始めるため、収蔵庫内の湿度管理にも常に気を配る必要があります。

 今回紹介したカビのモニタリングをはじめとして、IPMに基づいた収蔵物の管理には専門的な知識が必要になるため、美術館・博物館によっては担当者の設置が難しいところも多くあります。当研究室では各施設に最適なIPMの導入と実施のために、カビ以外にも害虫のモニタリングや調査方法の指導など様々なサポート業務に取り組んでいます。

カビ調査から見た収蔵庫の環境管理と重要性

(2019.10.1 IPM研究室)

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