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I / O 比が示す浮遊カビの発生源

住居内を浮遊するカビ胞子の由来を考える

 室内の空気中には沢山のカビ胞子が浮遊しています。住宅・職場・学校・野外などあらゆる環境の空気中に存在し、私達は常に呼吸とともにカビ胞子を吸入しています。浮遊カビは空気中で増殖・発生しているわけではなく、必ず周囲のどこかにカビ本体の繁殖源が存在し、そこから胞子が空気中へ飛散しています。浮遊カビの種類や濃度は、国、地域、季節、周辺環境により様々で、その場所に大量のカビが存在する場合、浮遊カビ数も多くなります。

 そのため、浮遊菌の測定を行い数値化することで、その環境のカビ汚染の程度を知ることが出来ます。本稿では、これまでに実施した住宅の浮遊カビ測定の結果を踏まえ、室内に浮遊するカビの発生源について解説します。

本稿は、以下の研究で得られたデータを編集したものです。研究の詳細は文献をご参照下さい。
【参考文献】
橋本&川上 (2015) 一般住宅における室内浮遊真菌の年間変動, 日本防菌防黴学会誌,43, 269-273

住宅の浮遊カビの測定方法

 関東地方に所在する戸建住宅2軒で1年間、浮遊カビの調査を実施しました。カビ測定は月1回とし、専用測定機エアーサンプラーを用いて屋内と屋外の空気を採取し、空気中に含まれるカビの数と種類を調べました(カビ培養にはDG18培地を使用)。

浮遊カビは1 年中浮遊している

 図1に各月の浮遊カビ数を示します。年間を通じたカビ数はP宅で最小120cfu/㎥〜最大850cfu/㎥、Q宅では170〜16,000cfu/㎥でした。一般的な住宅の空気中には、30〜2,000cfu/㎥のカビが浮遊していると言われており、P宅は標準的なカビ数と言えるでしょう。一方、Q宅は前半こそ標準的な数値でしたが、後半に入ると上昇し、8月・12月は10,000cfu/㎥を超える高濃度汚染を示しました。一般にカビが少ないと考えられている冬でも無くならず、両宅ともカビが浮遊し続けている状況が明らかです。特にQ宅は、梅雨の季節より、秋冬の方が高い数値となったのは興味深い知見です。

図1 室内空気1㎥あたりの浮遊カビ数の推移

浮遊カビの種類

 図2には両住宅を浮遊していたカビの種類を示しました。いずれの住宅もコウジカビ・クロカビ・アズキイロカビ・アオカビなどが多く見られました。通常、浮遊カビはこれらが多数を占めますが、住宅では特にコウジカビとクロカビが優占種となる場合が多いです。クロカビ(Cladosporium・クラドスポリウム)は文字通り黒いカビで、風呂場・洗面台・蛇口・窓の周囲などによく発生します。一般に思い浮かべる「カビ汚れ」の多くはクロカビによる汚染を指しています。一方、コウジカビ(Aspergillus・アスペルギルス)は比較的乾燥した環境を好むため、クロカビのように水回りでは見られません。それでは、これらはどこから発生しているのでしょうか?

図2 室内浮遊カビの種類(左:P宅,右:Q宅)

浮遊カビの発生源

 室内に浮遊する物質の汚染レベルを示す指標として、I/O比という数値が用いられています。
I/O比 = 室内濃度(I)÷屋外濃度(O)
 I/O比が1より大きくなると、室内濃度(I)が高いことを示すので、その汚染物質は室内で発生している可能性が高い、とする考え方です。このI/O比は浮遊カビにも用いられています。図3には、両住宅のコウジカビとクロカビのI/O比を示しました。両宅とも年間を通して、コウジカビのI/O比が1を超えています。これは浮遊するコウジカビの発生源が常に室内に存在することを示しています。コウジカビにはいくつかの種類が存在しますが、今回はその大半が、学名:Aspergillus section Restrictiと呼ばれる種類でした。この種類は耐乾性で絨毯や畳で繁殖し、ハウスダストの中に多数見られます。

 一方、クロカビはほとんどの月でI/O比が1を下回っています。これはクロカビの発生源が屋外に存在し、室内に流入していることを示しています。住宅室内の空気は自然換気によって、内外を行き来しており、屋外の空気質の影響をある程度受けています。両住宅とも屋外のクロカビの濃度が高くなれば室内のクロカビ濃度も高く、反対に、屋外のクロカビ濃度が低くなれば室内濃度も低くなる傾向を示しました。

 以上の結果から、住宅の主要な浮遊カビであるコウジカビとクロカビはそれぞれ発生源が異なっており、前者は室内を、後者は屋外を由来としていることが明らかになりました。これは、「室内浮遊カビ」の正体が、「水回りのクロカビ汚染」とは異なることを示唆しています。前述の通り、コウジカビのほとんどがAspergillussection Restrictiであることから、ハウスダストを発生源としていることは明らかでしょう。Q宅で多く見られたアズキイロカビもコウジカビと同様の性質でハウスダストのカビとして知られています。

 室内のカビ濃度を減少させるには、こまめな換気は勿論のこと、これらの発生源となっている書棚やカーペットなどのハウスダストを除去することが非常に有効な手段です。

図3 コウジカビとクロカビのI/O比の推移(上:P宅,下:Q宅)

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(2018.4.16 IPM研究室)

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