フジテレビ商品研究所

研究レポート

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原発避難区域住宅の
有害生物汚染調査

2011年3月の東北地方太平洋沖地震の影響で立ち入りが制限された避難区域の住宅における、有害生物汚染の状況を調査しました。

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に誘発された福島第一原子力発電所の事故は、放射性物質を拡散し、周辺住民が他地域への退避を余儀なくされました。事故から2年が経過した2013年2月現在も大熊町、浪江町、富岡町は警戒区域として立ち入りが制限され、その周辺市町村も避難指示区域が設定されています(表1)。これらの区域内には現在も多くの住宅が存在していますが、居住者不在や一時帰宅のみで、部屋を閉め切って放置された結果、害虫やカビが発生する事態が起こっています。こうした避難区域の住宅における有害生物汚染の状況を調べるため、警戒区域の北側にある福島県南相馬市へ赴き、調査を実施しました。

表1 避難指示区域の概要

避難区域住宅の現在

 2012年8月30日〜31日、福島県南相馬市小高区に所在する6軒の一戸建て住宅(A〜F宅とする)を訪問しました。いずれも原発から直線距離で15km内外に位置し、2011年3月12日の夕方に避難勧告が発令されてから一切の立ち入りが禁止されていました。その後、2012年4月に「避難指示解除準備区域」あるいは「居住制限区域」に警戒レベルが下げられ、日中のみ立ち入ることが可能となりました(A・B宅は居住制限区域、C〜F宅は避難指示解除準備区域にある)。

 調査住宅の1軒であるA宅は震災以降、居住者が一度も帰宅しておらず、食卓には今も食器が置かれたままで、着の身着のままで慌てて避難した様子がうかがえます(図1)。B宅は事故発生当時、完成して半年たらずの新築住居であったため、居住者は「諦められない」と言っており、週1回、日中に帰宅して換気と掃除をしているそうです。避難区域内に位置する住宅では、帰宅を半ば諦めかけている住民も多く、放置された住宅の荒廃が進むことが懸念されています。

図1 A宅の様子。帰宅ができず、退避当時のまま

住宅を汚染するカビ

 一般的に「人が住まない家は傷みが早い」と言われていますが、数か月ぶりに一時帰宅した際に多くの住宅で異変が見られたそうです。住民らが訴えた異変の一つが有害生物汚染です。
 B宅は、週1回帰宅しているため、綺麗な状態でしたが、事故から半年が経過して最初に一時帰宅した際には畳一面にカビが発生していたとのことでした。窓を閉め切って避難したことが仇となり、室内が高湿度となり、カビが発生したようです。それ以来、換気・清掃を励行し、現在、カビは無くなっています。

 今回、調査対象とした住宅の「室内浮遊カビ濃度」を調べました。B宅では空気1m3あたりのカビ数は1,100個でしたが、一般的な住宅では室内空気1m3あたりのカビ数は30〜2,000個程度であり※1、B宅は特に異常な数値ではありませんでした。それに比べてB宅の向かいに位置するA宅(居住者不在)は、室内は荒れ放題でカビ臭が漂っていました。「室内浮遊カビ濃度」は、1m3あたり50,000個を超える値でした。危険なレベルの高濃度カビ汚染と言えます(図2)。

図2 空気1m3 あたりのカビ数 (通常の住宅では概ね2000個以下)

その他の住宅もカビ濃度が高い傾向にあり、全く帰宅も掃除もしていないE宅でもA宅同様の高濃度カビ汚染を確認しました。
 このように、福島県の居住制限区域や避難指示解除準備区域の住宅のカビ汚染実態が深刻であることが明らかになりました。

ネズミの侵入被害

 2013年2月13日〜14日に、再び南相馬市を訪れ、8月と同じ住宅を調査訪問しました。
 B宅は、現在も週1回程度帰宅して換気・掃除をしているそうです。そのため、カビは発生していませんが、冬に入ってから「ネズミが発生する問題」が度々生じたそうです。B宅内を調査すると、小さなネズミの糞が落ちていました。家住性のハツカネズミの糞と考えられましたが、冬の寒さを凌ぐため、隙間を見つけて家屋内に侵入しているのではないかと思われます。

 居住者不在のA宅についても調査しました。室内は半年前に見た時のまま荒廃していましたが、入室した瞬間にアンモニア臭が鼻を突き、周囲に散乱するネズミの糞を直ぐに見つけることができました。南相馬市役所の担当者の話によれば、2012年の秋以降、多くの住宅でネズミの侵入被害を受けるようになったとのことです。今回訪問した6軒の住宅のうち5軒の室内でネズミの糞を発見しました。C宅では、押し入れのわずかな隙間を歯でこじ開けたような穴があり、周囲の電気コード類にはネズミのかじり痕が残されていました(図3)。

図3 C宅、ネズミにこじ開けられた押入れの隙間と電気コードに残されたかじり痕

 小高区に住居を構える住民の話によれば、「一時的に家に帰って横になって休んでいると、体を虫に刺された。多分、ダニだと思います。」とのことでした。家住性ネズミ(クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ)の体には、哺乳動物を吸血するイエダニなどが寄生しており、室内に侵入したネズミから離れたダニが人を刺咬することが知られています。

 調査を行った住宅のうち半数は、強制避難から2年の間に有害生物汚染や風化が進行し、人が住める環境状況ではありません。再び居住するためには、有害生物の除去を踏まえた徹底的な殺菌・殺虫清掃が不可欠であることが今回の調査から明らかになりました。
 避難指示区域内には、同様の住宅が複数存在していると想像されますが、将来、避難指示解除が出されたとしても、これらの住宅に直ぐに住むことはできないでしょう。
 いかにして住宅環境の保全に努めていくのか?今後の大きな課題です。

(本調査は、南相馬市役所の依頼により、独立行政法人産業技術総合研究所と共同で実施しました。)

※1 室内環境学会:室内環境概論、p.71、東京電機大学出版、東京(2011)

(2013.05.20 IPM研究室

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