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新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室 環境微生物学の研究者の立場から〜
第8回:夏季のマスクの使い方を考えましょう!
~屋内では不織布製と布製を使い分け、屋外では外す~

 一般的な感染症の場合、ヒトと病原微生物との関係が長期間におよぶほど、病原性は弱くなる傾向があります。これはヒト(宿主)の免疫などの防御機能と病原微生物の生存戦略が関係しています。新型コロナウイルスを終息させる手段について煎じ詰めて考えれば、「①集団免疫を獲得すること」と「②ワクチンが開発されて使用できるようになること」です。第1波を超えることが出来ましたが、第2波と第3波に備え、2度目の緊急事態宣言を出さないためにクラスター対策だけに固執するのではなく、「日本における感染者の病態や既往歴の分析」「1万人規模で開始された抗体検査のデータの解析」などを踏まえた科学的かつ具体的な手段を講じることが政府の使命ではないでしょうか。教育問題と経済の立て直しも踏まえた正しい指針を国民に示して頂きたいものです。


 2020年5月26日、情報発信が遅い厚生労働省には珍しく、以下のようなコメントを緊急配信しました。これは、迅速で正しい情報であると筆者は高く評価します。
 『新型コロナウイルスの感染拡大防止策に関して、加藤勝信厚生労働相は26日の閣議後の記者会見で、夏場にかけては熱中症にも注意が必要だとして、「屋外で人と十分な距離が確保できる場合にはマスクを外すこと。高温多湿の中でのマスク着用は体に負担になるので避けていただきたい。」とコメントした』また、関連するニュースでは『気象庁の予報では今夏(6~8月)は厳しい暑さが予想されており、厚労省と環境省は、屋外で他の人と2メートル以上の距離が取れる場合はマスクを外すよう要望。着用時には負荷のかかる作業や運動を避け、適宜外して休憩を取るよう勧めている。エアコンによる温度調節やこまめな水分補給など、従来の熱中症予防策にも取り組むよう求めている。』と報道されています。
 今回のコラムでは、厚生労働省の指針も踏まえて「マスクの使用方法」について解説します。


【屋外でのマスク着用について検証】

 図26をご覧ください。筆者の自宅から最寄駅まで徒歩で約15分かかりますが、それに合わせてマスクを着用して15分間歩き、その後、顔面のサーモグラフィ画像を撮影しました。この画像を撮影した5月28日午後2時に、サーモレコーダーで測定した撮影地点の気温は27.7℃、湿度48%でした。夏日とは言え、これから梅雨に入り、刺すような陽射しとなる真夏の気候より気温・湿度とも低く、汗ばむ陽気というよりも爽やかな天候でした。また、風速3メートル程度の風(木の枝や洗濯物が揺れる)が吹いていました。風速が1メートル増えるごとに、体感温度は1℃下がると言われていますので、体感的には測定気温よりも低く感じました。

 このような気象条件での検証でしたが、不織布のマスクと布製マスクを比較してみると、不織布マスクの方が布製マスクよりもマスク内と目元から額にかけて温度が、若干高くなっているのがお判りいただけると思います。この検証とは別に、不織布マスクと布製マスクを比較するために、それぞれ3種類ずつ異なる形態のマスクを着用して、晴天の屋外を歩いて体感的な違いについて調べてみました。その違いについて端的に言えば「不織布マスクは顔面との隙間が少なく素材的にも密閉性があるため、布製マスクよりも暑く感じる。また、不織布マスクはマスク内に汗をかくと、布製マスクのように直ぐに吸収されにくい。」ということです。恐らく、読者の皆さんも同様の使用感の違いを認識されているのではないでしょうか。


図26:サーモグラフィ画像(不織布マスクと布製マスク)

【マスクに効果あり! 夏季は不織布マスクと布製マスクを使い分ける】

 筆者は、コラム3(マスクに感染症予防の効果あり!通勤電車内などハイリスクな場所では必ず着用を!)で、新型コロナウイルスの感染症対策として、マスクの着用が一定の効果があることを啓発しました。マスクの感染防止効果の“ある・なし”については、様々な情報が流れましたが、一般の方々を混乱させる「WHOはどんな状況でもマスクを勧めない」といったフェイクニュースに対して、筆者は怒りを覚えました。

 そのような中、5月17日に香港大学(Hong Kong University)の研究チームが、「ハムスターを使った実験で、多くの人がマスクを着用すれば新型コロナウイルス感染拡大抑制につながる」と発表したことに胸がすく思いがしました。コロナウイルスの世界的専門家である香港大学の微生物学者、袁国勇(Yuen Kwok-yung)教授は、「特に無症状の場合は<症状がある場合でもそうだが>感染者がマスクを着用すれば効果があるのは明白だ。これが何よりも重要なことだ」と述べています。培養細胞レベルの実験で活性が残っているといった研究ではなく、マウスを使った実験であることが生活者の目線で見ても大変評価できる発表だと思います。

 マスクの配布に際して、政府は「このたび政府では、本年4月7日に閣議決定した、緊急経済対策に基づいて、全国の世帯に向けて、一住所あたり2枚ずつ布製マスクを配布することといたしました。布製マスクは、使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで、何度も再利用可能ですので、新型コロナウイルスの感染防止を図るため、御活用下さい。」と発表しています。

 図27表10に筆者が推奨する不織布マスクと布製マスクの使い分けについて示します。感染リスクが高いと思われる場面ではしっかりマスクを着用し、それ以外の場面ではマスクを外すことが大切です! 前述したサーモグラフィ画像でも示した通り、真夏の屋外でのマスクの着用は熱中症のリスクが高く、逆に、感染リスクが極めて低いことを考慮して着用しないようにしましょう。

 職場においては、それぞれの職場での決まりがあるかもしれませんが、「自分のデスクで黙ってパソコンで仕事をする時にも、絶対にマスクをすること!」といった決まりを社内で作り、全社員に四六時中マスク着用を強要することはパワーハラスメントだと考えます。デスクトップパソコンのモニターは飛沫の阻止効果があるはずです。出勤時から帰宅するまで一日中マスクを着用することは、呼吸を妨げることの連続ですので、体調不良を引き起こすこともあります。  布製マスクは、スポーツ用の素材などを使ったフィット感と吸収速乾性、更に、抗菌性を付加した優れた日本製商品が多種類販売されています。夏季は自分に合った布製マスクを使うことをお薦めします。


図27:熱中症対策のために不織布マスクと布製マスクの使い分ける

表10:マスクの使い分けの一例

【マスクは飛沫感染防止に効果あり! されど、幼児や小・中学生に屋外でのマスク着用を強要しない!】

 このコラムの冒頭で述べた通り、「5月26日の時点で、厚労省が夏季の屋外でのマスクの着用を止めるよう情報発信」し、その日のうちにテレビ・新聞・Webニュースで公表されました。しかしながら、幼児や小学生の子どもが母親や父親と手を繋いで路上を歩いている姿を見かけると、10組中8組くらいがマスクを着用して歩いています。
また、筆者の自宅周辺は玉川上水が東へ流れる緑豊かな地域ですが、早朝の新鮮な空気の中なのに、マスクを着用して散歩する方々を多く見かけます。恐らく、一般の方々は、クラスター対策に関連する過剰報道などから、「新型コロナウイルスは感染力が強いから怖い。空気感染するかもしれない」と言った恐怖心を過剰に植えつけられてしまったように推察します。

 そこで、改めて、コラム3に掲載した図5を再録し、「新型コロナウイルスは空気感染しない」ことを啓発したいと思います。厚生労働省のホームページ「新型コロナウイルスに関するQ&A」には、「新型コロナウイルスは一般的には飛沫感染と接触感染で感染します」と明記されています。

図5 感染の種類

 「飛沫感染」の“飛沫”とは、しゃべる・咳をする・クシャミをするなどした時に口から飛び出る水滴のことです。感染者の飛沫の中にウイルスが含まれている場合、これを近くにいるヒトが口や鼻から吸い込んで感染することを「飛沫感染」と呼びます。“飛沫の中に含まれるウイルス”は空気中に放出されると重力によって地面に落下して乾燥し、不活化されます。普通、飛沫は1mほどしか飛散することはありません。

 「接触感染」の“接触”とは、感染者がしゃべる・咳をする・クシャミをするなどした時に口から手指にウイルスが移り、更にテーブルやドアノブなど周りの物に触れることでウイルスが移染します。そして、他のヒトがウイルスに汚染されたものに接触することを指します。接触したヒトの手指にウイルスが付着し、その手で口や鼻を触ることにより粘膜から感染することを「接触感染」と呼びます。

 一方、飛沫の中に含まれる水分が蒸発して、ウイルスが飛沫核の状態で空気中に浮遊し、それを知らずに吸い込んでしまったヒトが感染することを「空気感染」と呼びます。空気感染する代表的な感染症は「結核(結核菌:放線菌目・マイコバクテリウム属)」、「麻疹(はしか):麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科・モルビリウイルス属)」、「水ぼうそう(帯状疱疹):水痘・帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス科・バリセロウイルス属)」などです。筆者が時々参考として引き合いに出す、インフルエンザウイルスも飛沫感染と接触感染が主たる感染経路ですが、冬季の暖房によって乾燥した密閉空間では空気感染することが知られています。新型コロナウイルスの場合も、同様のことが懸念されますが、夏季の開放空間で空気感染することはないことを認識することが大切です。気温30℃・湿度50%以上の高温多湿な環境下では、インフルエンザウイルスはほとんど生存できません。新型コロナウイルスも同様です(詳しくはコラム6をご覧ください)。
 筆者がとても心配しているのは、小学生や中学生の通学時と授業中のマスク着用です。

 図28をご覧ください。筆者は、天候に関わらず通学時のマスク着用は止めるべきだと啓発します。特に、雨天の日までマスク着用を強要することは、新型コロナウイルスの感染予防として意味が無いと思います。また、毎日水筒を持たせて、子ども達にこまめに水分補給させて欲しいというのが切なる願いです。
マスク着用に関する学校の取り決めは、地方自治体の教育委員会や学校長の考えに依るところが大きいと思います。しかしながら、過剰なマスク着用は前述のような理由で筆者はお薦めしません。同意見として、小児科や内科の医師は、概ね次のように啓発しています。


図28:雨降りの中でマスクはしない。教室では布製マスク着用し、換気をする

 『夏場は高温多湿な気候と、それに伴う発汗によって身体から水分が排出され、熱がこもって熱中症のリスクがあります。特に、体温調節が苦手な幼児と高齢者は注意が必要です。
マスクを無理に着けさせる必要はなく、手洗いや換気の徹底などを優先すれば良いでしょう。』


 「子どもは通学時に友達同士が至近距離でしゃべったり、ふざけ合って身体を接触させることが多いから通学時にもマスク着用すべきだ」との意見もあるかもしれません。しかしながら、そこまで心配するような方々は、「密閉度が高い不織布マスクを必ず着用し、通学時・授業中・帰宅時に必ず新しいマスクと交換しなければならない」といった極端な議論に発展しかねません。

 図29に、うがいの方法について示します。夏場も引き続き「うがい&手洗いが最も有効な感染症対策」であることは間違いありません。子ども達を新型コロナウイルス感染から守るためには、正しいうがいを登校した直後、休み時間、給食の前にさせれば、通学時にマスクを着用させる必要はないでしょう。


図29:登校をしたらうがいをする

[正しいうがいの手順]
(1)口に水道水を含み、強くグチュグチュしながら洗い流す<2~3回繰り返し>
(2)もう一度水を口に含み、上を向いてガラガラうがいをする<2~3回繰り返し>

※のどの奥まで水が届くように、「アー」や「オー」と発声すると、上手にうがいができます!

 読者の皆さんもご存知の通り、「中国で、生徒がマスクを着用したまま激しい運動を行って突然死する事故が相次いで発生しました」。あってはならない事故であり、筆者も胸が痛みます。同様の事故を再び起こさないように、炎天下の中、マスクを着用して校庭を走り回るようなことを決して子ども達にさせてはなりません。
(文章責任:川上裕司)

              

[参考文献]
林 基哉(2017):高齢者施設の感染予防を踏まえた室内湿度の改善,保健医療科学,66(2),163-171.
C Raina Maclntyre, et al., (2015): "A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workes." BMJ Open, Vol.5, e006577.
C Raina Maclntyre (2015): Abrar Ahmad Chughtai, "Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings." BMJ, Vol.350, h694.
Nancy H. Leung, et al. (2020): "Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks." nature medicine, doi.org/10.1038/s41591-020-0843-2.

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(2020年6月3日)


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