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新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室 環境微生物学の研究者の立場から〜
第6回:新型コロナウイルスは、湿気に弱い!
~日本の梅雨は拡散を阻止する一因となる~

 前回のコラムで、新型コロナウイルスは「新型」という和名が付けられているけれども、得体の知れないウイルスではないこと。そして、消毒用エタノールなどの消毒剤や紫外線に対して特別に強いウイルスではないことを述べました。

 その後、4月24日に米国の国立生物兵器分析対策センター(NBACC)が「太陽光によって新型コロナウイルスが急速に不活性化する」という研究報告を出したことがWebニュースやテレビ番組でも流されました。環境微生物学を専門とする筆者からすると、「何を今さら!ウイルスが紫外線に弱いことなど当たり前のこと!」と考えた次第です。ただし、「新型コロナウイルス」を供試して太陽光の紫外線や湿気に弱いことを明確にしたことは、大きな意味があると思います。

 NBACCは、「気温21~24℃、湿度20%の実験条件で、①無孔質の表面(ツルツルの基質)では、ウイルス量の半減期は18時間だったが、湿度を80%に上げると、半減期は6時間に減少し、さらに太陽光が加わると、2分間にまで減少した
②空気中にエアロゾルの状態で浮遊したウイルスの半減期は、1時間だったが、太陽光が加わると、1分半にまで減少した。」と報告しています。


 このデータは、日本の夏季(6月~9月)の気候は、確実に新型コロナウイルスの拡散を阻止することを意味しています。
 私は、今(4月末日の時点で)、「早く寒暖差が解消されて気温が安定して欲しい!特に、関東地方でなるべく早く梅雨が始まって、カラ梅雨にならないで欲しい!」と天に祈っています。

 今回のコラムでは、ウイルスと湿度の関係について解説します。


【相対湿度と絶対湿度について】

 下の図に、ウイルスの活性が高まる相対湿度とカビの繁殖が高まる相対湿度の違いを動画として示します。第3回のコラム(マスクの効果)でも述べましたが、インフルエンザが流行する冬季に加湿器を使うことは周知事実です。読者の皆さんの中にも、既に実践している方も多いのではないでしょうか?


図14:ウイルスの活性が高まる相対湿度とカビの繁殖が高まる相対湿度の違い

 ウイルスによる感染症対策に湿度コントロールが大切なことに異論はないと思いますが、対策に利用するためには、「湿度」について理解しておく必要があります。
 図15図16をご覧ください。空気には窒素や酸素などが含まれており、「乾き空気」に水蒸気(H2O)が含まれた空気を「湿り空気」と定義しています。湿度は、空気中に含まれる水蒸気の量を表す尺度のことで、一般的に「湿度」という場合には、ある気温(温度)における「相対湿度」のことを指します。

 ある湿り空気の水蒸気分圧と、その湿り空気が含むことができる最大水蒸気分圧(飽和空気の水蒸気分圧)の比を単位「%」で表します。もう少し分かりやすくいうと、空気中にどれくらいの水蒸気(水が蒸発して気体となったもの)が含まれているかを示す単位で、空気中に含まれる水分の割合のことです。

図15:湿り空気と乾き空気い

 もう一つ、湿度を表す尺度に「絶対湿度」があります。湿り空気に含まれている水蒸気の質量を指し、乾き空気1Kgに対する量として単位「Kg/Kg」で表します。絶対湿度は、温度が上がったり下がったりしても変わりません。また、絶対湿度は、容積絶対湿度と重量絶対湿度(混合比)に分かれます。容積絶対湿度は、湿り空気1m3に含まれている水蒸気量を示し、普通「絶対湿度」という場合は、容積絶対湿度(g/m3を指します。重量絶対湿度(混合比)は、乾き空気1 kgに含まれる水蒸気量(XKg)を示します。つまり、「容積絶対湿度」とは、1m3(1m×1m×1m)の空気中に、何gの水分が含まれているかを表した数値です。また、「相対湿度」とは、飽和水蒸気量に対する絶対湿度の割合のことです。

 例えば、500mlのペットボトルに250mlの水を入れた場合、ペットボトルのサイズ(500ml)が飽和水蒸気量、水の量(250ml)が絶対湿度、水が入っている割合(50%)が相対湿度となります。「容積絶対湿度=飽和水蒸気量×相対湿度」で計算することができます。この計算式で、容積絶対湿度を求めることで、居住空間が湿気っているか、乾燥しているかが分かります。環境微生物学的には、相対湿度とともに容積絶対湿度の値によって、対象とする微生物が繁殖しやすいか(活性が高くなりやすいか)を判定する目安として、管理対策(防除)に利用しています。


図16:相対湿度と絶対湿度の計算式(湿度は空気中に含まれる水蒸気量を表す尺度)

【新型コロナウイルスの不活化する湿度は?】

 新型コロナウイルスを不活化する湿度について論じる上で、インフルエンザウイルス対策のための湿度コントロールを応用することができます。このように述べると、「でも、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは別物でしょう?!」という声が聞こえてきそうなので、図17にDNAウイルスとRNAウイルスの形態について示します。この図は透過型電子顕微鏡による映像から解り易いように図示したもので実際には色はありません。
 インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは同じRNAウイルスの仲間で、形態も良く似ています。また、冒頭述べたように、新型コロナウイルスが紫外線や湿気に弱いという明確なデータが出たことから、新型コロナウイルスが、インフルエンザウイルスよりも物理的な刺激に強いとは到底思えません。


図17:DNAウイルスとRNAウイルスの形態の違い

 前述の図14に示した相対湿度は、空気中に含まれる水蒸気量が一定でも、温度によって変化することが特徴です。温度が上がると、飽和水蒸気量が増えるので、相対湿度は低くなります。逆に、温度が下がると、飽和水蒸気量が減少するので、相対湿度は高くなります。温湿度計を使って計測してみると、同じ家の中でも暖かい部屋では湿度が低く、寒い部屋では湿度が高くなります。例えば、天井付近では暖かい空気が上に行く性質があるため、温度が高く、湿度が低く表示されます。

 インフルエンザ対策で指標となるのは、空気中の水分量を指す「容積絶対湿度」(以下、絶対湿度と略す)です。絶対湿度が低いほどインフルエンザウイルスの活性が高くなることは、様々な研究データから明らかにされており、気温が低下する冬季に感染リスクが高くなることは一般の方々も良くご存知の通りです。


 図18図19に絶対湿度とインフルエンザウイルス流行の関係を示します。警戒レベルは、絶対湿度が7g/m3以下で、手指や唇が乾燥してひび割れるなど体感的にも空気が乾燥してカラカラであることが実感できるレベルです。要注意レベルは絶対湿度7.1~11.0g/m3以下で、安全レベルは絶対湿度11.1g/m3以上ですが、11.0g/m3付近は体感的に微妙なので注意が必要です。図19に各レベルを色分けして示しましたが、4月末日~5月上旬を鑑みた「気温20℃、相対湿度50%」では、絶対湿度7.7となり、安全レベルには達していないことが解ると思います。


図18:空気の乾燥(絶対湿度)とインフルエンザ流行の関係


図19:気温と相対湿度からみた絶対湿度とインフルエンザ流行の関係

 図20に、東京都の月ごとの平均気温と相対湿度のグラフを示します(2007年~2016年の10年間のデータから算出)。夏季の6月~9月を赤枠で囲いました。6月の平均気温22.6℃・相対湿度72%について、「図19の22℃・70%」に当てはめてみますと、絶対湿度は13.6g/m3となり、安全レベルになります。絶対湿度が高い環境、すなわち、空気中の水分が多いとインフルエンザウイルスは長時間生存することができません。表6に、絶対湿度とインフルエンザウイルスの生存率を示します。これは実験データですが、実際の生活環境に置き換えてみても、11.0g/m3以上の絶対湿度はウイルスを不活化させるキーポイントであると考えて良いでしょう。


図20:東京都の月ごとの平均気温と相対湿度の推移

 インフルエンザウイルスであれ、新型コロナウイルスであれ、絶対湿度が高いとウイルスはヒトの咳やくしゃみによって拡散することができず(遠くまで飛ぶことができない)、床や地面に落下して感染力を失います。また、絶対湿度が高いことは、第3回のコラム(マスク)でも述べた通り、感染経路であるヒトの喉や鼻が乾燥せずに湿った状態が保たれることによって、ウイルスの侵入をブロックすることにも繋がります。


 「アフリカのような暑い国でも新型コロナウイルスが流行していることを見れば、夏季に日本の感染者数が減ると考えるのは間違いだ」という情報が流されています。その情報は、単に気温と感染者数だけに着目するもので、今回述べた「湿度」にはあまり言及していないように思います。日本の高温多湿のジメジメした暑さと熱帯地域のカラッとした暑さとは異なる気候条件です。


 読者の皆さんの中には、「夏風邪もウイルスが原因である」と認識されている方もいると思います。夏風邪(6月末から7月にかけて流行する風邪症候群)の原因ウイルスは、高温多湿の環境を好み、夏季に活性が高まります。アデノウイルス(DNA)、エンテロウイルス(RNA)、コクサッキーウイルス(RNA)(いずれもノンエンベロープウイルス)などが原因ウイルスで、コロナウイルスやインフルエンザウイルス(いずれもエンベロープウイルス)とは異なる種類です。児童のプール熱(咽頭結膜熱)が良く知られていますが、発熱に加えて腹痛や下痢、喉の痛みなどが夏風邪の特徴的な症状です。


 以上、述べてきた通り、新型コロナウイルス対策のためには、生活の中で自分の周りの気温と湿度を意識することをお勧めします。そのためには、室内に温湿度計を設置しておくと良いでしょう。気象庁による向こう1か月の気象予報によれば、全国的に前半は気温の変動が大きく、5月中旬頃から気温は平年並みか高くなる見込みのようです。梅雨に入るまでのこれから1ヵ月間は、「季節の変わり目に伴う衣類や寝具の的確な調節」も、新型コロナウイルス感染症対策に必要です


 ヒト(ディフェンス)と新型コロナウイルス(オフェンス)との闘いにおいて、夏季の気象条件は、ヒト側に有利に働くことは間違いありませんが、夏季で終息するとは思えません。 秋季からの後半戦に勝利するためには、前半戦の終盤に差し掛かった今、如何に感染者数を減らすことができるかがキーポイントになると思います。

対策の基本「3密を作らず、マスク・うがい・手洗い」を真摯に履行していきましょう!

 梅雨に入った頃、今回のコラムの続きとして、「クーラーの使い方など」梅雨~夏季の気候に合わせた新型コロナウイルス対策について、より具体的な方法について述べる予定です。
(文章責任:川上裕司)

[参考文献]
向坂信一,山中泰彦(1992):紫外放射による殺菌作用,照明学会誌76(7),361-363.
林基哉(2017):高齢者施設の感染症予防を踏まえた室内湿度の改善,保健医療科学66(2), 163-171 .
庄司眞(2018-2019):全国インフルエンザ流行予測,㈶宮城県地域医療情報センター


(2020年5月1日)


IPM研究室