罫線上

新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室 環境微生物学の研究者の立場から〜
第5回:新型コロナウイルスだけが
不活化しにくいのか?
~消毒薬や紫外線に対して特別強いわけではない!~

 新型コロナウイルスに感染したヒトが、咳やクシャミをして、その飛沫核(ウイルスがつばの水分と浮遊塵の粒子を纏った飛沫。サイズは5μm以上)が、表面が滑面(ツルツルしている)や撥水性の素材に付着した場合、水分に保護されたウイルスが少し長い時間生存することが予想されます。実際には、金属やプラスチック製の素材です。前回(第4回)のコラムでは、公共交通機関のエスカレータ、吊革、手摺り、等に付着した新型コロナウイルスがスマートフォンへ移染して生じる感染リスクについて注意喚起しました。一方、衣類や布製ソファーのような水分が吸収されやすい素材の場合は、滑面素材より感染リスクが低いといえます。

 今回のコラムでは、感染者から生活環境中の様々な場所や物に付着した新型コロナウイルスは、何時間くらい活性が保たれるのか?言い換えれば、何時間経過すれば感染リスクが低くなるのか?!について解説します。


【新型コロナウイルスは、特別なウイルスの仲間ではない】

 一般の方々は、「新型コロナウイルス」が昨年末に突如として登場するまでウイルスについて全く意識して来られなかったことと思います。せいぜい、「インフルエンザの予防接種」を受ける季節になって、少し意識するくらいだったでしょう。それが突然、毎日途切れることなく、「ウイルス」、「新型コロナウイルス」の単語を聞かされる状態に置かれたわけです。何か特別な病原体に社会全体が襲われているといった感覚になっていることが普通ではないかと思います。しかしながら、今、世間を席捲している新型コロナウイルスは、新たに登場したコロナウイルスではあるけれども、今まで知られていなかった全く未知のウイルスではありません


 表4に、新型コロナウイルスの分類を、表5に、一般に良く知られているコロナウイルスの仲間を示します。コロナウイルスは、1960年代に2種のウイルスが発見されました。「ニワトリの伝染性気管支炎ウイルス:229E」と「風邪症候群のヒトの鼻腔から分離されたウイルス:OC43」です。ヒトに感染して、風邪症候群を引き起こすウイルスですので、読者の皆さんもきっと一度は罹患していると思います。また、重篤な呼吸器感染症を引き起こすコロナウイルスとして、2003年にSARS-CoV、2012年にMERS-CoV、2019年に2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) が登場してきました。


表4:新型コロナウイルスの分類

表5:一般に良く知られているコロナウイルスの仲間

 「コロナウイルス」の名称は、電子顕微鏡で撮影したその形態が、丸い光の輪(王冠・光冠花冠)に似ていることから、それを意味するギリシャ語のコロネ(ラテン語corona)から付けられています。

 新型コロナウイルスは特別な形態をしているわけではなく、遺伝情報が少し異なるからといって、他のコロナウイルスよりも(まして、細菌よりも)消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウム液に耐性をもっているようなことはありません。事実、他のコロナウイルスと同様に消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウム液によって短時間で不活化されています!


【屋外では太陽の紫外線によって、新型コロナウイルスは短時間で不活化される】

 筆者が2014年2月に実施した黄色ブドウ球菌に対する天日干しによる殺菌効果のデータを図12示します。これは真冬の晴天日に布団の天日干しをした場合に、太陽の紫外線によって、布団表面の殺菌効果が期待できるかどうかを調査した際のデータです。

 試験は、生理食塩水で107の菌数濃度に調整した黄色ブドウ球菌液を5㎝角の綿布に滴下したものを試験片として実施しました。太陽の高度が最も高く、紫外線量が多くなる12時~13時に、①直射日光が当たる場所、② 直射日光が当たらない日陰、 ③ 日光が全く当たらない実験室にそれぞれに試験片を置きました。そして、10分、30分、60分の時間経過ごとに綿布を回収して、直ちに混釈培養法によって黄色ブドウ球菌数を検査しました。

 開始時に約8,100万個の菌数が、直射日光を当てた綿布では、10分後に1万3千個、30分に360個と減少していき、60分後には0になりました。一方、日陰においた綿布の菌数は、10分後に1600万個、30分で470万個と減少速度が遅く、60分経過時点でも約270万個のブドウ球菌が生き残っていました。この簡単な実験から、冬場でも晴天日ならば、天日干しによる布団表面の殺菌は期待できることが示唆されました。


図12:黄色ブドウ球菌に対する天日干しによる殺菌効果のデータ

 ウイルスを供試した実験室内での紫外線照射試験の事例では、サクニミット・モラコット,八神健一,他(1988)による報告があります。この論文では「イヌコロナウイルス (CCV)、マウス肝炎ウイルス (MHV) 、キルハムラットウイルス (KRV) 、イヌパルボウイルス (CPV) の4種を対象として、紫外線の照射試験(ラボテスト)を行った結果、供試したいずれのウイルスも15分の紫外線照射で不活化できた。」と報告されています。


 太陽光が強い殺菌力を持っていることは、人類の歴史の中で、古くから知られていました。殺菌力が、太陽光線中の紫外線の作用によることは、皆さんも良くご存知のことだと思います。ですから、直射日光が当たる屋外で、何かの物体に新型コロナウイルスが飛沫核として付着したとしても、短時間で不活化され、何日間も感染力を維持することはありません。

 紫外線の殺菌力は、260nm付近が最も強く、直射日光に含まれる350nm付近の紫外線の約1,600倍に達します。これは微生物のDNAが260nm付近の紫外線を良く吸収することによって、DNAが破壊されるからです。市販されている殺菌灯からは、253.7nmの波長の紫外線が多く出ており、細菌・真菌・ウイルスなど全ての微生物を短時間で死滅させる能力を持っています。


【児童公園の遊具や設備の消毒は必要か?】

 先日、観たテレビの情報番組で、女性のコメンテーターがゲストの若手医師に「小さい子どもがいて、児童公園のブランコに乗せることに不安がありますが、大丈夫でしょうか?」という質問を投げかけました。それに対する医師の回答が至極曖昧でした。恐らくは、前述の紫外線の効果について、直ぐに思い出せなかったのではないかと思います(図13)


図13:「小さい子どもがいて、児童公園のブランコに乗せることに不安がありますが、大丈夫でしょうか?」

 保育園や幼稚園など、複数の児童が頻繁に使うブランコやすべり台の場合には、使用する時間帯終わりに手指で触る部分に消毒用エタノールを噴霧して拭き取っておくと安心です。

 しかしながら、前日または数日前に使った屋外の遊具を、使用する当日に消毒する必要はありません。児童公園についても同様のことが言えます。児童公園のブランコに子どもを乗せた場合には、使用した後に公園の水道で良く手を洗えば大丈夫です。直射日光が当たるブランコであれば、新型コロナウイルスが付着していたとしても、紫外線と熱の影響を受けて長時間生き残っていることはありません。雨が降れば、例え沢山の飛沫核が遊具に付着していたとしても、洗い流されてしまいます(図14)


図14:数日前に使った屋外の遊具を、使用する当日に消毒する必要はありません

【ラボテストのデータが一人歩きしています】

 「新型コロナウイルス、表面でどれくらい生きられる?」という情報が、著名なWebサイトに掲載されました。その情報が、そのまま朝の情報番組でオーバーな表現で視聴者に流されました。この情報をスマートフォンで読んだテレビ番組の制作者が、その情報を精査もせずに流したことは明らかです。このニュースを読まれたアナウンサーは、何の悪気もないどころか、視聴者に良い情報を伝えたと思っているかもしれません。


 さて、このニュースを観た視聴者は、「この情報」がどのように頭にインプットされたでしょうか?

  1. やはり、このウイルスは、新型だから長生きして怖い!
  2. 感染者が出たら、その感染者の身の回りを徹底的に消毒しないと危険だ!○感染者が来店したと判明した飲食店は、ウイルスがしぶとく生き残っている可能性があるから当分の間、その店に行くのは止めよう!
  3. 感染者の家に近づくのは止めよう!

 このように過剰な情報がインプットされた方がいるのではないでしょうか?
 そもそもこの情報は、英国のジャーナリストリチャード・グレイ氏が書いた
Covid-19: How long does the coronavirus last on surfaces? (By Richard Gray, 17th March 2020)
という情報を和訳して流されたものです。そして、大元の論文が2020年4月1日に電子ジャーナル(The New England Journal of Medicine)に掲載された以下の論文です。
Doremalen N, Bushmaker T, et al. : Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1.


グレイ氏が書いた情報を和訳して流された情報には、以下のように書かれています。


 NIHの研究では、段ボールに付着したSARS-CoV-2は最大24時間、プラスチックやステンレスの表面では2~3日間生存することも明らかになった。この調査から、新型ウイルスがドアノブやプラスチックでコーティングされたデスクなど、硬い表面でより長く生存することがうかがえる。一方この研究では、銅の表面では約4時間で死滅することが分かった。服など消毒しにくいものの表面で、新型ウイルスがいつまで生存するかは分かっていない。ロッキー・マウンテン研究所の研究者で、NIHの研究を主導した1人のヴィンセント・ムンスター氏によると、段ボールなど吸収性の高い天然繊維の上では、プラスチックや金属の上よりも、ウイルスは素早く乾くようだ。「通気性・通水性の高い物質の上では、ウイルスは急速に乾いて繊維にこびりつく可能性がある」とムンスター氏は説明した。温度や湿度の変化も生存期間に関係する可能性があり、エアロゾル状態でウイルスが不安定なのは、熱や湿気にさらされやすいからかもしれない。
 「我々は現在、温度や湿度の影響をさらに詳しく調べるため、追加実験を行っている」


 さて、大元の学術論文に、どのように記載されているでしょうか。

[供試ウイルス]
 SARSコロナウイルス(SARS-CoV-1)
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
[供試材料]
 エアロゾル、プラスチック、ステンレス、銅、ダンボール
[実験手法]
 エアロゾル中の試験では21~23℃・65%RHの条件下で、プラスチックなど材質の上の試験では、21~23℃・40%RHの条件下で、3回繰り返して実験を行った。
 対照とする群が直ぐに不活化しない、実験室での実験(ラボテスト)

[結果]

  1. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、エアロゾル中では3時間生存可能であるが、感染力価の低下が認められた(103.5~102.7 TCID50/空気1ℓ当たり)。
  2. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、プラスチックおよびステンレスの表面では、銅やダンボールの厚紙より安定でありウイルス力価は72時間後まで検出されたが、ウイルス力価は大幅に減少した。プラスチック面では「103.7~100.6 TCID50/細胞培地1mℓ当たり/72時間後」、ステンレス表面では「103.7~100.6 TCID50/細胞培地1mℓ当たり/48時間後」であった。
  3. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、銅の表面では4時間後には不活化された。
  4. 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、ダンボールの表面では24時間後には不活化された。ダンボールでは実験データにバラツキが大きかった。


 本論文の末尾に、「本研究から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、エアロゾル中(飛沫核)では数時間、基質の表面ではウイルスを含む排泄物の状態に応じて数日間生存することが示唆された」と記載されています。本論文で示されたデータは、あくまで培養細胞を用いたラボテストの結果であり、末尾の文章は、注意喚起を促すためにあえて曖昧な記述(少し過剰な表現)となっています。

 本コラムでこれまでも述べてきた通り、実際の生活環境下では、新型コロナウイルスとヒトだけの問題ではなく、感染には環境条件が大きく関わってきます。飛沫核として環境中に拡散したウイルスにとって、ちょっとした環境の変化が活性を保つためには大きな障壁になります。


 前回のパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ(2009 H1N1 ( swine flu) では、飛沫核として環境中に飛散した場合、生存時間(不活化するまでの時間)は2~8時間程度とされています(アメリカ疾病管理予防センター(CDC):Centers for Disease Control and Prevention)の見解)。インフルエンザウイルスが環境中でどのくらい生存し感染力を保つかは、付着したウイルス量、排泄物の状態、環境表面の状態、そして、温度や湿度などの気象条件によって大きく左右されることが明記されています。したがって、インフルエンザウイルスが環境中の何かの表面に付着していたとしても、一晩(8時間以上)経てばそこからヒトへ感染する可能性は極めて低いというのが、感染症の研究者の大方の意見です。

 住宅、職場、店舗などで、もしも新型コロナウイルスの感染者が出た場合、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウム液などを使って感染者が触ったと思われる箇所(ドアノブやテーブルなど)をしっかり消毒することが大切です。また、日常の予防管理として、ドアノブを消毒用エタノールで消毒することは有効です(筆者の職場では2時間置きに実施中)。
 しかしながら、あまりにも神経質になり過ぎて、床、壁、天井、窓の外まで消毒剤を噴霧して徹底的に拭かなければ怖いなどとは決して考えないでください。筆者の居住地である東京都小平市所在の「東京都多摩小平市保健所」の新型コロナウイルス感染対策担当者にこの点についてお話しを伺いました。


Q(筆者):
 新型コロナウイルス感染者が出た住宅の居住者や店舗の事業主に対して、消毒はどのような薬剤を使用して、どの範囲を消毒するように指導されていますか?また、消毒作業に保健所から要請した業者が消毒作業を実施することがありますか?

A(保健所担当者):
 居住者や事業主に対して、感染者が触れたと思われるドアノブやテーブルなどを「消毒用エタノール」または「次亜塩素酸ナトリウム液」(市販のキッチン用漂白剤を水道水で0.05%濃度に薄めた液)を布に染みこませて拭くように指導しています。室内全体を徹底的に消毒せよとは指導しません。また、余程特別な集団感染で無い限り、業者に消毒作業を依頼することはありません。

 このコラム全体で述べている通り、筆者は新型コロナウイルスをインフルエンザウイルスよりも紫外線・湿気・消毒剤対して耐性があるモンスターウイルスだとは考えていません。依って、前述の保健所の回答の通り、感染者が出たとしても極端に恐れることなく、必要十分と思われる箇所に普通に消毒を行えば十分です。ウイルスは自己増殖しません。
 また、新型コロナウイルスの主たる感染は飛沫感染(咳やクシャミによる飛沫核)です。室内の床に新型コロナウイルスが付着していたとしても何日間も不活化せず(感染力を失わず)、感染リスクがあると考えるのは精神的に良くないのでやめた方が良いでしょう。

 新型コロナウイルスについては、確かにまだ未解明な点が多いことも事実です。研究者によっても、極めて慎重な意見を言われる方とそうでない方もいます。ともすると、一般の方々に恐怖心だけを植え付けるような意見を何の疑問も持たずに公然と話す大学教授も存在します。

 最後に、筆者が申し上げたいのは、「フェイクニュースを信じて、感染者や感染経路となった店舗などを少しでも差別することは、最も恥ずべき行為で、現に慎むべし」ということです。新型コロナウイルスに心までもっていかれたら、それは本当の敗北です。
(文章責任:川上裕司)


[参考文献]
Doremalen N, Bushmaker T, et al. (2020) : Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1, The New England Journal of Medicine.
サクニミット モラコット,八神 健一,他(1988):コロナウイルスおよびパルボウイルスに対する物理・化学的処置の殺ウイルス効果の検討,Experimental Animals 37(3),341-345.
Questions & Answers:2009 H1N1 Flu ("Swine Flu") and You


(2020年4月21日)


IPM研究室