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新型コロナウイルス感染症対策
〜IPM研究室 環境微生物学の研究者の立場から〜
第1回:自分が新型コロナウイルスと
戦う意識を持ちましょう!

 昨日(3月29日)、東京では今季初の積雪があり、都心部では1㎝。山沿いでは20~30cmの雪が積もりました。3月下旬の降雪は32年ぶりのことのようです。
 新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、東京都の小池都知事からのメッセージによって、先週末から外出自粛の最中、昨日の降雪は「人々の外出を抑制した」という観点からは「幸運の雪」であり、あまりにも極端な気温の乱高下という観点からは「不運の雪」とも言えるでしょう。年明けから感染者が急増中の新型コロナウイルス感染症ですが、今年の冬季が記録的な暖冬ではなく、例年並みかそれより寒い冬であったとしたら、恐らく感染者数はもっと急激に増加していたかもしれません。


 さて、連日連夜、WEBニュース、テレビ、新聞、雑誌で流されて来る「新型コロナウイルス感染症情報」には、正直辟易していると感じている方も多いのではないでしょうか?!「感染しても8割の人は、軽症なのに、日本の現状と欧米諸国の状況をごちゃ混ぜにして、恐怖を煽っているように思う。。。」方も少なからずいるように思います。
 また、「テレビの情報番組のコメンテーターやウイルスの専門家と称する方々のコメントも様々で、何を信用して良いか混乱するからテレビは観ない」と考える方も多いのではないでしょうか。


 当研究所は、マスコミ(フジメディアホールディングス)が母体の総合研究所ですが、BSL2の微生物実験室を持つ理系の研究所であり、世界を見渡しても類を見ない存在です。「新型コロナウイルス感染症対策」に関する情報を当研究所が発信して良いものかどうか熟慮しましたが、以下の3つの観点からホンの少しでも読者の方々の役に立つ情報を配信出来れば幸いと考えて「新型コロナウイルス感染症対策:IPM研究室~環境微生物学の研究者~の立場から」を立ち上げることにいたしました。因みに、IPMとは「Integrated Pest Managemant」の略で総合的有害生物管理を意味します。

  1. 長年、環境微生物学を研究している立場から、一般の方々の目線を踏まえて、解り易く解説する。
  2. 情報が錯そうしている昨今、誤解を生むと思われる情報については、その補足のコメントを発信する。
  3. 文字情報だけでは解り難い情報を、極力「イラスト、表、写真などを使って紐解き」解説する。


 WEB、テレビ、新聞、雑誌等で、様々な方々が、それぞれの立場や違った観点から「新型コロナウイルス感染症対策」に関する情報を流していますが、未曾有の有事に、悪意を持ってフェイクニュースを垂れ流す極悪人は論外として、大半の情報提供者は「国民のために良い情報を提供したい」との思いから情報やコメントを出していることに相違ないと思います。ところが、受け取る側からすると、「では自分は具体的にどうすれば良いのか?」、「どのように対応したら良いのか?」迷っている。という方々が多いのも実情ではないでしょうか?


 「そもそもウイルスとは何者か?」、「コロナウイルスは新たに見つかったウイルスなのか?」などウイルスに関する初歩的な情報を交えながらコメントしていきます。
 また、コメントをリリースした後、説明不足などあったと確認した場合には、補足のコメントを追記し、読者の皆様に有益な情報を提供できるよう真摯に配信していきたいと考えております(筆者のプロフィールは末尾に記述します)。


【敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず】

 環境微生物学の講義をする際に、私は必ず著名な「孫子の兵法」の1節を引用します。
今回の「新型コロナウイルス感染症対策」に当て嵌めてみますと、以下のようになるのではないかと思います。
敵(新型コロナウイルスの実体)を正しく理解し、
己(個人の健康状態と日本人の感染者の詳細な状況分析)を把握し、国民に広く情報を開示し、データに基づく啓発が行うことが出来れば、
百戦して危うからず(具体策が明確になり)、新型コロナウイルスに勝利することが出来る)!


目に見えない微生物はオバケと同じ

 大学で「微生物学」の第1回目の講義を始める際に、学生達に「カビ(真菌)、細菌。ウイルスの違いを簡単に説明できる人がいますか?」と質問を投げかけてみて、明確に答えられる人は殆どいません。それは当たり前のことで、一般の方々は微生物、ましてや病原微生物(病原体)となると正に「オバケ」と同じ(図1)で、実体が良く判らないから怖いといった認識しか持っていないのが普通でしょう。歴史的にも、「ハンセン病」(らい菌=放線菌が引き起こす皮膚病)のように、大人から大人へ感染せず、初期に治療すれば全く後遺症も残らない疾病であるにも関わらず、いまだに怖い病気だという間違った認識をもっている方が少なからずいることを見ても、「一般の方々には微生物はオバケと同じ」と言えるでしょう。


 追って、基礎的なことも解説していきますが、先ず読者の皆様へお伝えしたいことは、感染症が成立するには3つの要因が不可欠である(図2)ということです。

感染症成立の三大要因

 第1に病原体(今回は、新型コロナウイルス)、第2に感染経路(発生源~感染が広がる経路。環境要因など)、第3に感受性宿主(今回は、新型コロナウイルスに感染するヒト)

 今、国や地方自治体が懸命に、国民に呼びかけているのは、第2の感染経路を断つために、「クラスターを形成しないこと」ですね。しかしながら、前述の「己を知る」ために必要な日本人の感染者の分析データ=「感受性宿主」の特徴がいささか不明瞭であるように思います。各個人に宛てた、「もし自分が感染したらどのように行動すれば良いのか」また、「もし自分の感染がPCR検査で明らかなった場合、軽症であっても2週間前後隔離入院することになるのか?それとも1週間程度病状を視た後、自宅療養となるのか?」といった国や地方自治体からの情報発信が不足しています。


【各自が新型コロナウイルスと戦う意志を明確に持つことが大切!】

 さて、環境微生物学を研究している立場から考えるに、ウイルスだろうが、細菌だろうが、真菌だろうが、その対策にあたっては、自分と自分を取り巻く環境を踏まえて、人任せにせず、自分が戦う意志を明確にして、初めて自分なりの具体的策を見いだせるように思います。勿論、実際に感染が判明した後の治療については専門医に任せるしかありませんが、常に戦う意志を持ち続けることが大切です。


 私自身に当て嵌めて、表1のようなチェックリストを作成してみました。私は新型コロナウイルスには罹患しないと自信がある方は、〇か✖か記入してみてください。あくまで私信ですので、参考程度にして頂きたいのですが、〇が7個以上ある方は概ねその状態を保ちながら生活していけば良いと思います。逆に、予想外に〇の数が少なく、4個以下の場合には、今一度、現状を見直し、改善できるものは改善し、新型コロナウイルスと戦う意志を高めた方が良いかもしれません。
(2号につづく)

表1 新型コロナウイルス対策のためのチェックリスト

(2020年3月30日)


【執筆者プロフィール】(文章責任)

川上 裕司(かわかみ ゆうじ)
博士(農学)、専門は、環境微生物学(真菌・細菌・室内塵性ダニ類・衛生昆虫の調査研究とIPMによる対策)
1982年 日本大学大学院農学研究科博士前期課程修了

〔現職〕
 ㈱エフシージー総合研究所 取締役・暮らしの科学部部長(IPM研究室室長兼務)
(独)国立病院機構相模原病院臨床研究センター 客員研究員
東京家政大学環境教育学科・同大学大学院,法政大学国際文化学部,横浜美術大学美術学部非常勤講師(環境微生物学・環境衛生学実験・生命科学など講義)

〔おもな編著書〕
「博物館・美術館の生物学―カビ・害虫対策のためのIPMの実践―」[共著](雄山閣,2009年)
「自然素材でかんたん防虫―身近なものをつかった虫よけ・虫退治法―」[共著](PHP研究所,2010年)
「室内環境学概論」[編著] (東京電機大学出版局,2010年)
「吸入性アレルゲンの同定と対策」 [分担執筆](メディカルレビュー社,2014年)
「室内環境における微生物対策」[編・著](技報堂出版,2016年)
「アレルゲン害虫のはなし」[編・著](朝倉書店,2019年) ほか9冊


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