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地味な食材も一工夫で高級に
誰にでもひとつやふたつ、食わず嫌いがある。かつて私は、タン塩が駄目だった。
人間の味覚というのは勝手なもので、同じ牛肉でも、ヒレやロースなら美味(おい)しそうだと感じるが、タンと聞くと食欲が失(う)せたりする。
忘れもしない。私が初めてタン塩を食べたのは、東京・下北沢の焼き肉屋さんだ。今は亡き(俳優の)松田優作さんがごちそうして下さった。
この時は主人(ミュージシャンの宇崎竜童さん)も一緒で、彼にとってもこれがタン塩の初体験になった。
オーダーをする際、尻込みをする私たちに、例の低音で、優作さんがこうおっしゃった。
「まァ、宇崎さん、阿木さん、騙(だま)されたと思って食べてみて下さい。きっと病みつきになりますよ」
その言葉に嘘(うそ)はなかった。想像していたのとは異なり、牛舌はあっさりしていた。レモンを掛けると、何枚でも食べられるそうだ。
優作さんのおかげで、私たち夫婦はタン塩が大好物になった。
また人には、子供のころは嫌いでも、大人になるに従って、好きになる食べ物もある。
えてして子供は、分かりやすい味を好む。ケーキのようにただ甘いとか、カレーのように辛いとか、単調な味に惹(ひ)かれる傾向がある。見た目にも大きく左右され、外見がパッとしないと、手を付けてくれない。
その点、身欠きニシンは不利である。ルックス的には生活に草臥(くたび)れた中高年のようで、あまりに地味だ。
でも、一旦(いったん)、火を通してじっくり煮込めば、この通り。高級感溢(あふ)れる一品に。おまけに八角を入れたので、エキゾチックな味に仕上がった。これぞまさしく大人の味覚。
人間、何事も食わず嫌いはもったいない。大人にならなければ分からない味があることを思えば、この先の人生にも希望が持てる。(文・調理 あきようこ=作詞家)
身欠きニシンと大根のエスニック煮
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