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この研修会は、制定から100年が経過して実情に即さなくなった「伝染病予防法」を改め、平成11年4月より施行された新しい「感染症法」に即した感染症の対策について研鑽しようというものでした。屋外の病原媒介性動物の広域防除に重点を置き、更に昨年、米国で4,000名を越す患者が発生して社会問題となっている蚊媒介性感染症“ウエストナイルウイルス熱(脳炎)”の日本への上陸を想定した有意義な研修会でした。
参加者は、埼玉県健康福祉部や保健所の職員をはじめ、PCO(有害生物防除業者)など約80名を数えました。
筆者に与えられた演題は「広域防除の進め方と理念 −つくば科学万博での実例を踏まえて−」というものです。もう18年も前のことですが、筆者はつくば科学万博会場の有害動物防除業務の現場責任者として博覧会協会で仕事をしました。この時の経験を踏まえ、更に今日の感染症問題の実情に即した「有害動物の広域防除の考え方と取り組み方」について話しをさせていただきました。講演の要旨は以下の通りです。
要旨の末尾に「ウエストナイルウイルス」に関する情報も簡単にまとめましたので、参考にしてください。
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国際科学技術博覧会(科学万博−つくばExpo '85)での 有害動物防除の概要 |
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1)PCO協議会
@科学万博は『人間・居住・環境と科学技術』というテーマのもと,1985年(昭和60年)3月17日〜9月16日までの6カ月間,茨城県つくば市で開催された。
A科学万博会場周辺は,水田,畑地,山林,河川などがあり,会場(面積101.6ha=1.006?)はこれらの立地条件下を開発して建設されたため,万博会期中,様々な有害動物による直接被害と間接被害(疾病の媒介)の発生が懸念された。
B(財)国際科学技術博覧会協会では医療衛生課を設け,その課内に有害動物防除専門部門として“つくばExpo '85 PCO協議会”を組織した。
C“つくばExpo '85 PCO協議会”は(社)日本ペストコントロール協会が(財)国際科学技術博覧会協会の委託を請けて,社団に加盟する関東支部のPCO19社によって組織され,防除業務にあたった。
D1983年に2回,1984年に7回の計9回の会期前有害動物生息調査を実施の上,防除法を決定した。そして,会期前に2回の一斉防除作業を実施して開催に備えた。 E会期中は毎日の有害動物発生調査および重点処理を行うとともに,計6回の一斉防除作業を実施した。また,野鼠の生息調査を2回実施した。
2)防除対象となった有害動物
@飛翔性昆虫(アオバアリガタハネカクシ<毒成分:Pederin>,カミキリモドキ類<毒成分:Cantharidin>,カ類,ハエ類,ユスリカ類,ドクガ類,ヤガ類,ハチ類,ウンカ類,ヨコバイ類)
A歩行性昆虫(アリ類,ゴミムシ類,ゴキブリ類,チョウバエ類)
B樹木園芸昆虫(ガ類幼虫,カメムシ類,ハムシ類,コガネムシ類)
C昆虫以外の節足動物(ムカデ類,ヤスデ類,ダンゴムシ類,ワラジムシ類)
Dネズミ類の寄生ダニ(ツツガムシ類)
Eネズミ類(アカネズミ,ハタネズミ,ハツカネズミ) ?ヘビ類(マムシ,ヤマカガシ,アオダイショウ,シマヘビ)
3)防除法の概要
@立地条件から生息が予測される有害動物の大凡のリストを作成し,それに基づいて生息調査法を決定した。
A季節変動を考慮して,会期の2年前から春季〜夏季〜秋季に生息調査を実施した。
B対象とした有害動物は,自然生態系型と都市生態系型の両者であることを十分把握した上で防除法を決定した。
C継続的な生息調査(日常の監視体制)を行い,発生源に対して速やかな重点処理を実施した。
*インセクトスイーパー(屋外設置型吸引式捕虫機)の活用。
D日常の生息調査のデータを基に,会場内の8つのブロックごとに処理法(使用薬剤とその量など)を決定し,定期一斉防除を計6回(2〜3日/回)実施した。
E一斉防除後に効果判定を行い,不十分な箇所が発見された場合には重点処理を実施した。
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2.有害動物の広域防除の考え方
@里山(民家の周辺に田畑があり,その周囲を自然林の山が取り囲んでいる)では,何か1種の生物が大発生することは殆どない。その理由は,様々な生物が暮らす自然の生態系がバランス良く保たれているから。
A人が自然の生態系のバランスを崩した場合に,無害の動物達が有害動物として人に認識されることが多い。前述の科学万博の例がその縮図と言える。
B『自然環境と都市環境の接点となる地域が具体的にどこの地域なのか』を調べておくことが広域防除の第1歩ではないだろうか。 Cその上で,それらの地域で人畜への悪影響(特に病原体の媒介など)を及ぼす可能性のある動物の生息調査を少しずつ実施して,データを蓄積することができれば,“いざ鎌倉”の時にはそのデータが大いに役立つことは間違いない!
D森林や田畑などを開拓して新規に大型マンションなどを建設する際には,建設後の環境を予測した環境アセスメントを行うことも大事である。貴重な生物の存在を評価することも大切だが,『何が将来有害動物となり得るか』,『そのためにはどのような対策を予め立てておけば良いか』という考え方が不足している。
余談:《イエバエによる腸管出血性大腸菌O157の媒介》
平成8年(1996年)10月、佐賀県の保育園でO157の集団食中毒が発生し、ここで採集されたイエバエからO157が検出されたのが初めての記録。
この保育園の近くには豚舎があり、イエバエが大量に発生しており、この保育園へも沢山飛来していた。この状況を観た保健所の女性職員と佐賀県衛生研究所が共同で調査した結果、保育園に飛来してくるイエバエの体からO157を検出したのが発見の経緯である。その後、国立感染症研究所昆虫医科学部が中心となって大規模な調査をした結果、イエバエによるO157の媒介の可能性が明らかになった。
3.有害動物の広域防除を行う上でのポイント
@防除組織の確立(県〜衛生研究所〜保健所〜PCOの役割分担)
A有害動物の発生状況の把握(立地条件に見合った日頃のデータの蓄積が大切)
B対策案の迅速決定(防除組織の責任者が最終決定する)
C迅速な防除処理と効果判定(速やかな処理を実施できる実働部隊の体制作り)
D有害動物の広域防除は“地震対策”と同じようなもの!
大発生してからいざ実施しようとした場合,困難を極めることは想像に難くない。日頃から準備しておくか,それとも何もしないでおくか? 関係各位の良心が問われるのではないだろうか!
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3.有害動物の広域防除を行う上でのポイント
@防除組織の確立(県〜衛生研究所〜保健所〜PCOの役割分担)
A有害動物の発生状況の把握(立地条件に見合った日頃のデータの蓄積が大切)
B対策案の迅速決定(防除組織の責任者が最終決定する)
C迅速な防除処理と効果判定(速やかな処理を実施できる実働部隊の体制作り)
D有害動物の広域防除は“地震対策”と同じようなもの!
大発生してからいざ実施しようとした場合,困難を極めることは想像に難くない。日頃から準備しておくか,それとも何もしないでおくか? 関係各位の良心が問われるのではないだろうか!
4.ウエストナイルウイルス媒介蚊の広域防除
ウエストナイルウイルスは自然界においては,鳥と蚊の感染サイクルで維持されている。人にウエストナイルウイルスを感染させる可能性のある媒介蚊のうち,以下の種は日本にも広く分布しており,注意が必要。
(1)アカイエカ( Culex pipiens pallens)……夕方から夜明けにかけて活発に吸血する。
(2)チカイエカ( Culex pipiens molestus)……都心のビルの地下湧水槽などに多く,殺虫剤抵抗性が極めて強い系統が存在する。
(3)ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)……公園や庭先に多く,昼間もよく吸血する。
(4)ヤマトヤブカ(Ochlerotatus japonicus:Aedesから変更)……墓地などに多く昼間もよく吸血する。
講者は過去に新宿のビルの地下湧水槽で採集したチカイエカが殺虫剤に極めて強い抵抗性を有することを発見し、日本衛生動物学会(川上裕司 (1989)東京都新宿区で採集したチカイエカの殺虫剤抵抗性.衛生動物 40, 217−220.)で発表した。この蚊は冬でも地下施設で働く人達を刺して問題となっており、殺虫剤が効きにくいことから完全に防除することが困難になっている。
もし、東京都心に集まるカラスがウエストナイルウイルスを獲得し、更に強い殺虫剤抵抗性をもつチカイエカに伝播することになったとしたら、米国ニューヨーク市と同じように東京都心でも多くの患者が出ることは想像に難くない。
講者の報告以後、チカイエカの殺虫剤抵抗性については全く調べられていないが、今年、国立感染症研究所・昆虫医科学部のスタッフが全国的に「媒介蚊の殺虫剤抵抗性の調査」を実施するとの情報があり、大いに期待している。
−関連情報−
ウエストナイル熱・脳炎について
1.ウエストナイルウイルスとは?
ウエストナイルウイルスは、ウイルス学的にはフラビウイルス科フラビウイルス属と分類されており、日本脳炎ウイルスと極めて近い関係にあるウイルスである。 アフリカ、西アジア、中東、ヨーロッパ、北米で見つかっており、蚊が媒介して、ヒトのほか、トリ、ウマなどの動物へ感染する。
ウエストナイル熱は、インフルエンザ様の症状で、ほとんどの患者は数日から1週間以内で回復するが、重症の場合、このウイルスが脳に感染してウエストナイル脳炎を引き起こす。
ウエストナイル熱・脳炎は、従来アフリカ、ヨーロッパ、西アジアで患者発生報告があったが、アメリカ大陸での患者発生はなかった。しかしながら、1999年ニューヨーク市周辺での流行が報告されたことから、大きな注目をあつめるようになった。世界の感染事例は以下の通り。
○イスラエル:1951-1954, 1957, 2000年
○フランス:1962, 2000年
○南アフリカ:1974年
○ルーマニア:1996年
○イタリア:1997年
○ロシア:1999年
○アメリカ合衆国:1999−2002年
※現在のところ、日本においては輸入症例、国内感染の報告いずれもないが、今夏は要注意!
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2.感染経路は?
ウエストナイルウイルスは自然界においては、鳥と蚊の感染サイクルで維持されている。ヒトはウエストナイルウイルス感染蚊に刺されることにより感染する。媒介蚊は、アカイエカやヤブカ類(*)で、これらの蚊は日本にも生息する。
通常、ヒトからヒトへの直接感染はないとされるが感染経路は不明な点が多い。
*Culex pipiens、Culex restuansとCulex salinariusは主として夕方から夜明けにかけて活動が活発であり、またAedes japonicusとAedes triseriatusは昼間に刺す蚊であって、これらがウエストナイルウイルスに感染していることが明らかになっている。
最近の米国での流行で、移植された臓器および輸血を介しての感染を疑わせる報告があった。事実関係については、現在、米国の研究機関において確認作業が進められている。 また、ウエストナイルウイルスが、母乳を介して感染した可能性があるとされる症例が1例報告されている。
3.症状は?
ほとんどの人(約80%)は無症状。感染した人のうち、2割程度がウエストナイル熱になると考えられており、発熱、頭痛、筋肉痛や、時に発疹、リンパ節の腫れが見られるが、症状は軽度。ウエストナイル脳炎になり重症化すると、激しい頭痛、意識障害、痙攣、筋力低下、麻痺などを示す。 たとえ感染した蚊に刺されても、すべてのヒトが感染するとは限らず、また感染したとしても症状が出るのは、2割程度。症状が出るまでの潜伏期間は、2〜14日(普通2〜6日)である。 ウエストナイル熱では1週間以内で回復するが、脳炎など重症になると数週間続き、後遺症が残ることがある。 ウエストナイルウイルスが蔓延しているところに住んでいる人は誰でもかかる危険性があるが、特に高齢の人は重症になりやすいといわれている。 重篤な患者は主に、高齢者にみられ、重症患者の3〜15%が死亡するといわれている。
4.治療は?
ウエストナイルウイルスに対するワクチンは、今のところない。また、ウエストナイル熱・脳炎に対する特効薬はなく、症状を軽減する対処治療しかない。
5.北米における感染状況…米国疾病対策予防センター(CDC)発表
| 年 |
感染者数 |
死亡者数 |
| 1999 |
62 |
7 |
| 2000 |
21 |
2 |
| 2001 |
66 |
9 |
| 2002 |
3,955 |
252 |
アンダーライン……(カナダ:感染141/死亡2)
*2002年のデータは1月3日時点<
*鳥の感染:
2000年:12州の鳥4,139羽からウイルスが分離された。
2001年:5,154羽のカラスと2,179羽の他の鳥が感染して死亡した
(合計7,333羽/27の州)。
*ウマの感染:
2001年:19の州から合わせて733頭が感染した。
*CDCからの情報によると、ウエストナイルウイルスは、既にカリブ海諸国に侵入した模様。フロリダおよびカリブ地域では、通年性の警戒が必要である。
ウエストナイル熱(脳炎)についてのQ&Aおよび診断と治療のガイドラインについての詳細は、厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/10/tp1023-1.html)へアクセスしてください。
(2003.04.01 環境科学研究室)
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