(41)酵母菌 カンジダ による酩酊症

 ヒトの皮膚や消化管には、常在微生物よと呼ばれる多種類の微生物が生息しています。普段は多様な微生物がバランスよく生息して、腸内環境を整たり、免疫力を高めたりすることに一役買っています。しかしながら、極端な疲労やストレス、胃腸の病気に罹患することによって心身のバランスが崩れると、これまで体に悪影響を与えていなかったはずの数種の微生物が活発化して、感染症を引き起こすことがあります。このような疾病を日和見感染症と呼んでいます。


 例えば、善玉菌のイメージが強い酵母菌です。酵母菌として最も有名なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)はパンや日本酒などの発酵に欠かせません。しかし分類学的には、酵母は糸状菌(カビ)や担子菌(キノコ)と同じ真菌(菌類)に属しており、中にはヒトに疾病を引き起こす病原酵母菌も存在します。
 「カンジダ」と呼ばれる酵母菌も日和見感染の原因となり、皮膚、口腔、性器に「カンジダ症」と呼ばれる炎症を引き起こします。特に膣カンジダ症は婦人科の疾病として良く知られています。主な病原菌として、「カンジダ・アルビカンス」、「カンジダ・グラブラータ」、「カンジダ・クルーセイ」(Candida albicans,C. glabrata,C. krusei)などが挙げられます。



 他にも胃や腸に棲みつくカンジダが原因となり、お酒を飲んでいないにもかかわらず酔っぱらっているかのような症状の病気もあります。
 「2009年、米国テキサス州在住の61歳の男性が強いめまいを訴えて救急搬送されました。病院で呼気検査を行ったところ、男性の「血中アルコール濃度」は法定基準の5倍以上。しかし、男性はその日全く酒を飲んでいませんでした。男性の病名は、「消化管カンジダによる酩酊症」です。


 サッカロミセス・セレビシエのようにカンジダもアルコール発酵能力を持っています。通常は人の消化管で、糖分はアルコール発酵の前に腸に吸収されてしまいますが、酩酊症となる患者の消化管内に棲みつくカンジダはアルコール発酵能力が極めて高く、食べた物に含まれている糖分を分解して消化管の中で急速にアルコールを作ってしまうようです。
 症状が酷い方は、名前通り酩酊状態になってしまうこともあるようです。その結果として、作られたアルコールをそのまま消化管から吸収されて、患者は酒を飲んでいないのに、酒酔い状態になってしまいます。国内では1952年に初めて酩酊症が報告されていますが、報告数は多くなく、あまり知られていない珍しい病気です。ただし、軽症の場合は見過ごされてしまっていることもあるようですので、食後に原因不明のめまいや吐き気を覚えると自覚される読者は真菌症を専門とする病院を受診されることをお勧めします。


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(2017.02.10更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は3月10日(金)を予定しています。

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