(38)貴腐ワインはカビが醸し出す!

 ワインは紀元前7,000年ごろから飲まれているとされていますが、基本的な製造法は当時から変わっていません。

 基本的な製造工程は、ブドウの果実を潰して果汁中に含まれる糖分をワイン酵母(サッカロミセス・セレビシエ)によってアルコール発酵させます。古い時代には、ブドウ果実に付着している天然酵母をそのまま使って発酵させていました。天然酵母は、その年に収穫されるブドウの品質に左右されることが多く、発酵スピードもまちまちなため、現代のワイン造りでは、最適な酵母を人工的に培養して、それをブドウに加えることで発酵や品質を安定化させています。アルコール発酵の際に果皮を取り除き、搾汁のみを発酵させたものが白ワイン、果皮ごと発酵させ搾汁したものが赤ワインになります。



 ワインと微生物の関係は酵母だけではありません。高価なことでワイン通に知られる貴腐ワインは糖度が高く、甘みの強い白ワインで、食前酒やデザートワインとして愛飲されています。貴腐ワインは灰色カビの一種(ボトリティス・シネレア)というカビが生えたブドウでしか作ることができません。このカビが生えることによって、果実が萎びてきますが、甘く、独特な香りを放つため、「貴く腐った」ワインと称されます。実っているブドウの果実にボトリティス・シネレアが自然感染すると、果肉内の水分が少なくなり、糖度が増します。また、カビの代謝産物によって本来のブドウにはない独特の香りが付加されるのです。



 ボトリティス・シネレアは、野菜や果物、花など様々な植物に「灰色かび病」と呼ばれる感染症を引き起こすカビでもあります。イチゴを冷蔵庫で保存した時にまれに生える「灰色のカビ」が灰色かび病です。貴腐ワイン用のブドウであっても同様で、多湿や未熟果実に感染してしまうと灰色かび病となり、ワインに使えないブドウになってしまいます。また乾燥しすぎていると、カビが感染しません。


 貴腐ワインの原料となるためには、湿度、気温、感染時期などの条件が完璧にそろわないと生まれません。そのため、自然環境下で貴腐ブドウを醸造できる地域は限定されています。フランスのソーテルヌをはじめ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼやハンガリーのトカイが世界3大貴腐ワインとして有名です。高温多湿の気候風土をもつ日本国内では、山梨県が条件に揃った年に貴腐ワインが醸造されています。先日の伊勢志摩サミットでも採用されました。

 年末年始、少し奮発して、貴腐ワインを味わってみてはいかがでしょう。


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(2016.12.9更新 エフシージー総合研究所 IPM研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は12月23日(金)を予定しています。

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