(37)日本酒は麹菌と酵母菌が生み出す芳醇な酒

  日本酒は「SAKE」として酒の国際的なブランドとして評価されています。ワインの国際的審査会であるインターナショナル・ワイン・チャレンジにも日本酒部門が設立され、増々日本酒への関心が高まっています。日本酒は世界中の酒の中でも類を見ないほど香り豊かな芳醇な酒です。



  その歴史は古く、奈良時代に本格的な日本酒造りが始まったようです。大きな特徴として、ワインやビールなどの他の醸造酒と比べてアルコール度数が高いことです。商品として出荷する時点では、芳醇な味を最も引き出せるようなアルコール度数に下げていますが、発酵直後の醪(もろみ)の段階では20度付近のアルコールが含まれています。一部、アルコール度数を調整しない「原酒」も販売されています。高いアルコール度数は発酵に麹菌(ニホンコウジカビ:アスペルギルス・オリゼ)と酵母菌(サッカロミセス・セレビシエ)の2種類を用いるために生まれたものです。


 ワインはブドウがもともと持っている糖分を利用して酵母菌がアルコール発酵を行います。そのため、糖度が高い品種のブドウを原料として使います。ビールでは麦のデンプンを麦自身が持つ酵素で糖化した後、アルコール発酵をします。そのため、麦芽を原料として使います。ワインのように発酵が一度の場合を単発酵、ビールのように二度の発酵を別々に行う場合を単行複発酵と呼びます。一方、日本酒は精米に含まれているデンプンを糖化する役目を麹菌が担います。麹菌が作った酵素がデンプンを分解して糖分を作り、その後、酵母菌が糖分をアルコール化します。デンプンの糖化と並行して糖分のアルコール化が行われる発酵方法を並行複発酵と呼びます。並行復発酵では、アルコール化するための糖分が絶えず供給されるため高アルコール度数を可能にしていますが、仮に20度前後のビールやワインを作ろうとすると、水あめのような濃度の糖分が必要になってしまいます。中国の紹興酒や東アジアの醸造酒も並行複発酵で作られていますが、原材料の穀物と利用される菌の種類が日本酒とは異なります。麹菌は日本の温暖多湿な気候で生育するカビで、食品発酵に麹菌を用いる手法は日本独自の文化として発展してきました。稲作文化と、麹菌・酵母による並行復発酵が日本酒特有の芳醇な香りを生み出しました。


 ワインやビールよりも日本酒の醸造が難しい点は、麹菌と酵母菌の2種の微生物を同時に扱うため、高度な衛生管理が必要です。日本酒の仕込みは寒く腐敗しにくく、また発酵温度を管理しやすい1月から行われますが、日本人のきれい好きで几帳面な性格が日本酒造りを定着させ、世界的なブランドにまで押し上げたように思います。


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(2016.11.25更新 エフシージー総合研究所 環境科学研究室)



産経新聞掲載記事『微に入り細に入り』

次回の更新は12月9日(金)を予定しています。

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