文化財保存修復学会 第33回大会(セカンドサーキュラー)
2011年6月4日(土)・6月5日(日)、奈良県新公会堂にて開催される文化財保存修復学会 第33回大会(セカンドサーキュラー)において、研究発表を行いました。
| 【日 時】 | 2011年6月4日(土) ポスターセッション内(P030) |
| 【主 催】 | 一般社団法人 文化財保存修復学会 |
| 【場 所】 | 奈良県新公会堂(奈良市春日野町101) |
| 【演 題】 | 「書籍のfoxing部位から分離されたカビとそのカビを供試したfoxingの再現性実験」
川上裕司1,3),佐々木紫乃2),橋本 一浩1),福田 安住1) 1)(株)エフシージー総合研究所 2)東京都立中央図書館 3)ランビエンテ修復芸術学院 |
はじめに
書籍等の紙質文化財にあらわれる褐色斑点(foxing)は古くから知られている。その原因について新井(保存科学:1984, 1985, 1986, 1987)はfoxingの主たる形成要因にカビが関わっていることを証明し,2種のカビを原因菌として同定している。また,橋本らは(室内環境:2010*)近縁の3種を新たにfoxing原因菌として同定した。演者らはこれらfoxing原因菌をfoxingが発生している古書籍5点から採取・同定し,foxingの再現性実験を行った。また,真菌を採取した書籍についての殺菌処理法についても再検討した。
*橋本一浩,各務清美,横山耕治,福田安住,川上裕司(2010)美術館から分離されたAspergillus section Restrictus の遺伝子解析および形態的観察による同定,室内環境,13(2),131-139.
材料および方法
洋装本3点(表装材はそれぞれ布・革・紙)と和装本2点を材料とした。各材料の表紙と見返しのfoxing発生箇所から滅菌スタンプ瓶(栄研化学製)と滅菌綿棒を用いてカビを採取した。そして,DG18寒天培地とM40Y寒天培地を用いて培養後,同定を行った。採取したAspergillus conicus,A.penicillioides,A.versicolor の3菌種について,foxingの再現性実験に供試した。再現性実験の材料とした紙(以下,試験紙とよぶ)は,楮やパルプ等,異なる原料の紙10種類を用いた(表1)。試験紙は,UV灯を照射して滅菌した。滅菌シャーレに滅菌濾紙を置き,0.1mlの生理食塩水を滴下した後,滅菌した金網,試験紙の順に置いた。供試菌はそれぞれ斜面培地で培養後,リン酸緩衝生理食塩水に胞子を懸濁することにより菌液とした。菌液を試験紙に滴下し,温度25℃・湿度85%RHに保った恒温恒湿機で30日間培養した。
また,再現性実験で用いたA.conicus とA.versicolor の菌液を塗布して培養した濾紙と5点の書籍を対象として,無水エタノール,70%エタノール,50%エタノールによる殺菌処理を行った。書籍については処理の前後に滅菌スタンプ瓶を用いてカビを採取し,処理法の効果を判定した。
| 表1 foxing再現性実験の材料とした紙の原料 | |||
| 番号 | 原料 | 番号 | 原料 |
|---|---|---|---|
| 1 | コットンリンターパルプ(100%) 版画用紙 | 6 | 楮(厚) |
| 2 | コットンパルプ(100%) 水彩画紙 | 7 | 楮(薄) |
| 3 | コットンパルプ(75%) 木炭紙 | 8 | 楮、胡粉 |
| 4 | 三椏、パルプ | 9 | 楮、白土 |
| 5 | パルプ 弱アルカリ(pH 8.5) | 10 | 竹 |
結果と考察
5点の書籍から,Aspergillus属,Eurotium属,Penicillium属が分離され,その中にはfoxingの原因菌であるEurotium herbariorumとAspergillus penicillioidesも含まれていた(表2)。
E. herbariorumは洋装本(表装材:クロス)の表紙と和装本の表紙から分離され,A. penicillioidesは洋装本(表装材:紙)のfoxingが多数発生しているページから分離された。また,同ページからはA.conicus も分離された。A.conicus はA. penicillioidesの近縁種であり,今回の結果からも本種がfoxingの起因菌であることが再確認された。分離菌を供試してのfoxing再現性実験では,同条件下でもカビの発育や褐色濃淡の現れ方が異なったことが興味深い結果である(表3)。パルプ100%の「試験紙1」は試供した2つの菌でカビの発生および蛍光反応が確認できたが,楮100%の[試験紙6]ではカビの発生は認められなかった。パルプや靭皮繊維といった紙の原料の違いによって,カビの発育および褐色濃淡の現れ方が異なることが判った。演者らが美術館から分離したA.conicus を用いて行った同様の実験でも原料にパルプを含む紙の方に濃い褐色斑点が認められたこともから,カビによる影響は紙の化学的組成によって異なる可能性が高いものと考える。この点については,追試験を行う予定である。
対処法については,70%エタノールを使うことで一定の効果が認められた。
| 表2 書籍から分離されたカビ | |||||
| Aspergillus.spp. | Eurotium.spp. | Penicillium.spp. | |||
| A. penicillioides | A.conicus | A.versicolor | E. herbariorum | ||
| 洋装本(表装材:クロス) | ○ | ○ | |||
| 洋装本(表装材:紙) | ○ | ○ | ○ | ||
| 洋装本(表装材:革) | ○ | ○ | |||
| 和装本 | ○ | ○ | |||
| 和装本 | ○ | ○ | ○ | ||
| 表3 資料別再現性実験結果 | |||||||||||
| 試験紙 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
| A.conicus | カビ | ○ | × | × | ○ | × | × | ○ | × | ○ | × |
| 褐色斑点 | × | × | × | × | × | × | × | × | × | × | |
| 蛍光反応 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | ○ | × | × | × | |
| A.versicolor | カビ | ○ | ○ | × | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ | ○ |
| 褐色斑点 | ○ | ○ | × | △ | △ | × | × | × | × | × | |
| 蛍光反応 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | × | × | × | ○ | × | |
| ○:発生している ×:発生していない △:不明 ※試験紙番号は表1に示した番号. | |||||||||||
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