エアーサンプラーによる美術館のカビ汚染調査
全く立地条件の異なる2つの美術館のカビ汚染調査の実施例についてご紹介する。
A美術館は比較的新しく、館内の清掃などの日常管理がよくなされており、一見するとカビに汚染されている印象は受けない。もう1件のB美術館は古い建築物を改築して美術館としたものであり、湿気が多く窓ガラスの結露が著しい状況である。
館内のカビ汚染レベルを調べるには?
図1 滅菌スタンプ瓶を用いたカビ採取試験(A 美術館)カビは水分と栄養素のある所で繁殖する微生物であり、作品の隙間などの死角や、肉眼では判別できない小規模な範囲で発生する。図1のように微生物採取用の滅菌スタンプ瓶を用いてカビを採取する方法があるが、これらのカビ汚染を一つ一つチェックしていくのは労力と費用の面から非常に困難である。
それでは、カビ汚染の状況をどのように数値化するか? カビは胞子を作り、それを空中に飛散させることで増殖をする。つまり、カビが多く繁殖していれば相対的に空中に浮遊するカビ胞子も多くなる。そこで、ひとつの方法として室内浮遊真菌数(CFU/m3)を測定することでカビ汚染の評価を行う。
図2 エアーサンプラーによる測定(A 美術館)浮遊真菌数(CFU/m3)の測定には、図2のようなエアーサンプラーを用いる。エアーサンプラーで一定量の空気(通常100~200リットル)を吸い、内部にセットした平板培地に空気を吹き付ける。これを培養して発生した集落を計数することで、1m3あたりの浮遊真菌数を算出することができる。
図5にA美術館、B美術館の浮遊真菌数の結果を示した。両美術館とも複数の部屋で測定を行い、平均値を求めた。適切な管理が行われていたA美術館は平均4.05CFU/m3と低い数値であった。一方、肉眼でも顕著なカビ汚染の確認できたB美術館は平均94.3CFU/m3とA美術館の数値を大きく上回った。このように、浮遊真菌数を測定することで、室内空気のカビ汚染状況を知ることができる。
それでは何故、B美術館はカビ汚染がここまで進行してしまったのか?A美術館、B美術館の大きな違いは「結露」である。B美術館は建物の特徴により、非常に結露しやすい欠点を持っている。図3に示したように、館内のほとんどの窓がほぼ一日中、結露で濡れている状況だ。
B美術館の館内は空調が効き、館内に設置されている温・湿度計によれば、20℃・湿度50~60%に保たれている。数字だけを見れば問題はないように思えるが、窓に常に結露があるようでは、そこでカビは繁殖してしまう。図4に示したように、窓枠・カーテンにカビが発生している様子が多くの場所で確認できた。こうした結露付近のカビが汚染源になったと考えられる。
図4 窓の木枠、カーテンに発生したカビ(B 美術館)
図3 結露した窓(B 美術館)これを裏付けるデータを図6に示した。B美術館は館内全ての窓が結露しているのではなく、例外として、 2F南側に位置する部屋は日当たりが良く、窓に結露が見られなかった。そこでB美術館の「結露の見られた部屋」と「結露の見られなかった部屋」の平均CFU/m3を比較した。
グラフを見ての通り、結露の見られなかった部屋は平均10.9CFU/m3と結露の見られた部屋の109CFU/m3の10分の1であることが判る。このことからB美術館のカビ汚染には窓の結露が大きく起因していることは明白だ。
図6 結露の見られた部屋・結露の見られなかった部屋の平均浮遊真菌数(CFU/m3)
図5 A美術館・B美術館の平均浮遊真菌数(CFU/m3)B美術館のカビ汚染の実態
B美術館は結露の見られるほぼ全ての部屋で顕著なカビ汚染が確認できた。図7図8に示した部屋は特にカビ汚染が酷く、壁と天井が一面、カビに覆い尽くされているような状況であった。この部屋に発生したカビを滅菌スタンプ瓶で採取し、寒天培地上で培養を試みたところ(図9)、Cladosporium 属 (クロカビ)の仲間が大半であると判った(図10)。クロカビは住環境中に普遍的に分布しているが、アレルゲンとして人体に対し悪影響を及ぼす可能性があることが知られている。展示作品の汚染劣化だけでなく、職員への健康影響も気掛かりだ。今回、B美術館の調査は冬期に行ったが、カビの活動が活発になる夏期にはCFU/m3の上昇が予想され、早急な対策が必要であると考える。
常に結露している状況では、カビを除去してもまた、すぐに新しいカビが発生してしまう。まずは、根本的な問題である館内の結露を解消することが、第一の対策である。
図8 壁に発生したカビ(図7の拡大)
図7 壁に発生したカビ
図10 壁から採取したクロカビの顕微鏡像
図9 壁から採取したカビ- 2010.10.01

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