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第233回 組織の経験生かすも殺すもトップ次第(2010年5月31日更新)
口蹄疫問題への対応をめぐって、赤松広隆農水相に批判が集中している。2カ月ほど前、マグロの漁獲規制問題では、国際舞台で規制が決まらなかった日本にとっての勝利を喜色満面でアピールしていたが、今回は一転、守勢に回らざるを得なくなった。症例が確認されていたにもかかわらず、不要不急の外遊に出たことがやり玉に挙がっているのだ。まさか自分へのご褒美として外遊をアレンジしたわけではあるまいが、タイミングが悪すぎる。
農水相の発生時の対応について振り返ってみる。4月20日に口蹄疫の発生が確認され、その3日後に大臣会見が開かれた。会見では、報道関係者のおかげでパニックが起こらずにすんだなどと、事態を深刻にとらえている様子は全くうかがえなかった。外遊直前の4月30日の会見でも、殺処分対象となる牛や豚は4369頭と自ら発表したにもかかわらず、その規模の大きさや拡大の可能性を軽く考えたのか、外遊へと旅立ってしまった。
この対応を見て、筆者は9年前のえひめ丸事件を思い出した。ハワイ沖で愛媛県の水産高校の練習船が米海軍の潜水艦に衝突・沈没し、9人の生徒・教員が亡くなった。事故が発生したときゴルフを楽しんでいた森喜朗首相は、事件の一報を受けた後でもプレーを続け、危機管理意識のなさを露呈してしまった。これが退陣のきっかけとなったのだが、赤松農水相の頭に、このことがよぎらなかったのだろうか。
企業の広報担当者や危機管理担当者は、自社に起こりうる事案についてリスクを洗い出し、対応策を検討している。新たな要素が加わればすぐに見直しが行われるのが通例だ。さらに、他社の事例をクリッピングしたり、記者から情報収集したりすることで自らの経験知に取り込む努力をしている。危機発生に際して、対処の仕方を誤ると会社の存亡にかかわるとの認識が定着しているからだ。
他方で、危機管理は時間やコストもかかり、さらに平時にはその貢献度が計りづらい業務だ。経営環境が厳しくなると、営業部門の担当者や役員からは数値目標がなくて楽だねと言われたり、危機管理はいいから売り上げに貢献する広報をしろと指摘されたりもする。そうした無理解な人に限って、いざ事が起こると、自分は担当でないと真っ先に逃げをうつ。始末に悪い典型といえる。
農水省には、10年前に口蹄疫が発生したときの経験がある。感染力の強い口蹄疫には迅速な対応が求められる。しかし、その経験が生かされたとはとても思えない。まして、トップである大臣が「われ関せず」とばかりに外遊してしまったのだから、組織が動くはずもない。「政治主導だから」と直言する事務方幹部もいなかったのではないか。「マグロの勝利」は一瞬にして地に落ち、「畜産農家を守れない農政」の印象だけが残った。
(広報フォーラム事務局 大島光博)
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