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第205回 『ありがとう&サンキュウ』(2009年11月4日更新)
私は天候によって、通勤にバスを使うことがときどきある。たとえば雨の日、
濡れた傘を持って山手線に乗ると、若い女性から睨まれるからだ。最近は、若い男性も辛らつで、自分の傘でぐいぐい私の傘を遠ざけてくる。自己中心の若者が増えたということなのだろうか。傘の問題だけではない。ホームや階段、エスカレーターが濡れているため滑りやすく、何度か危ない目に合った。
その点、バスは歩道から大した段差もなく乗り込めるし、座っていれば目的地に着くのでラクだ。雨の日ばかりではない。朝起きて、空が真っ青なときは、迷わずバス停に行く。犬の散歩をしている人、ジョギングやウオーキングを楽しんでいる人、アメリカンスクールのバスを待っている外国人のお母さんと子供たち十数人のたまり場の様子を車窓から眺めているだけで楽しくなってくる。
車中でもいろいろな出来事があるものだ。それは強い雨が降る日だった。35歳ぐらいのサラリーマンが黒い大きめのバッグを肩に提げ乗り込んできた。私が座っている2つ前の席に座ったのだが、多分、バッグのファスナーを開けっ放しにしていたのだろう。座った途端、中の小物数点が床に落ちてしまったようだ。前や後ろの座席の下に入ってしまうと自分ではなかなか見つけにくい。
その様子を左手座席から見ていた年配の男性が「1個、前の席の左前下にありますよ」「もう1個は、さらに前の席の下に入ったみたい」と、サラリーマンに教えてあげ、しばらくして落ちたものすべてを回収したようだ。驚いたのは、そのサラリーマンが、ひと言のお礼を言わなかったことだ。教えられたままに拾い集め、あとは平然と椅子に座っているだけ。それが35歳ぐらいの男の姿だった。
JR目黒駅発大井競馬場行きのそのバスは、品川駅で多くの乗客が降りる。そのサラリーマンも下車したが、結局、ドア近くに座っていた年配の方には挨拶じまいだった。なぜ、ひと言「ありがとうございました」「ご親切に」と言えなかったのだろう。感謝の気持ちはひと言で十分相手に伝わるし、なによりも自分自身、感謝の気持ちを伝えることはまっすぐな気持ちになった気がするのにと思う。
欧米では、見知らぬ人同士でも親切にされれば「サンキュー」「サンキューソーマッチ」が、失礼があれば「アイム、ソーリー」が自然と出てくる。そういう様子を見ているのは気持ちのいいものだ。日本人は照れがあるのだろうか。パソコンの画面ばかり見て、最初のひと言が出てこなくなっている最近の日本の社会において、コミュニケーションの始まりは、ひと言からであることをよく理解してほしいと思わざるを得ない。
(広報フォーラム事務局・山本ヒロ子)
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