(137)昆布だし


 多くの家庭向けの料理本には、「昆布だしをとるときは、昆布を水にしばらく浸けておき、火にかけて小さな泡が出始めたら取り出します」と書かれています。ところが、最近は、60℃で1時間抽出するとうま味が最大限に引き出されるという研究結果から、その方法を実践する日本料理店も多いようです。抽出方法によって、昆布だしの味がどのように異なるのか、調べてみました。

   
昆布だしのお吸い物
 

● だしのとり方
 家庭で手軽に使える価格帯のカットタイプの日高昆布(600円/100g)を用い、比較として一等品と表示のある日高昆布(1460円/100g)も加えました。昆布の使用量は、硬度約30mg/L(軟水) のミネラルウオーター(以下水)1Lに対して30gにしました。
 とり方は大きく分けて「水だし」「60℃だし」「80℃だし」「80℃+放置だし」の4通り。水だし以外の水戻しは1時間としました。「水だし」は冷蔵庫で3時間、10時間、24時間置きました。「60℃だし」はガスコンロの最弱火でも加熱を続けると60℃以上になってしまうため、60℃の恒温槽に1時間入れました。「80℃だし」は沸騰直前(80℃)まで5分15秒加熱し、昆布をとり出しました。「80℃+放置だし」は「80℃だし」を昆布ごとボウルに移して1時間放置しました。


● うま味成分
 昆布だしの代表的なうま味成分はグルタミン酸です。各抽出方法を3回行い、3回分を合わせて試料とし、遊離グルタミン酸量を測定しました(図1)。カットタイプで最も遊離グルタミン酸が多かったのは60℃だしでした。次に多かったは水だしの10時間と24時間で、次いで80℃だし、80℃+放置だしでした。一等品の80℃だしはうま味が多く、この昆布を使って60℃だしをとれば、さらにうま味が多いだしになったことが推察されます。


昆布だし汁中の遊離グルタミン酸


● 官能評価
 3名で飲み比べてみました。水だしで評価が高かったのは10時間です。3時間では少し薄く、24時間ではぬめりと昆布独特の生臭さが出てしまい、長く浸け過ぎない方がよいことがわかりました。60℃だしはまろやかで、甘みがあり、生臭さや雑味は感じられませんでした。80℃だしはすっきりしていて飲みやすく、60℃だしと同様の高評価でした。昆布を鍋に入れっぱなしにする湯豆腐などを想定した80℃+放置だしは、雑味や昆布臭さが際立ってしまいました。一等品はくマイルドで上品な味でした。


● まとめ
 水出しは手軽ですが、浸け過ぎに注意してください。60℃だしはおいしいのですが、家庭では温度コントロールが難しいと感じました。従来法の80℃だしは60℃だしと比べて遊離グルタミン酸量は少なくなりますが、遜色ない味わいで、なんといっても短時間で調理できる点が魅力でした。80℃+放置だしが不評であったため、湯豆腐など鍋料理の場合、昆布は入れたままにせず、取り出した方がよいと思われます。等級が高い昆布のだしはうま味成分が多く、吸い物などにお勧めです。
 昆布は日高以外にも種類が多く、等級や値段にも幅があります。昆布の種類や等級、だしのとり方を変えて、いつもの味と比較してみてはいかがでしょうか。

(2017.02.24)

産経新聞掲載記事『比べる×調べる』

 

食品料理研究室